関東煮、田楽とかしわ 身近な歴史を辿る
関東煮(かんとだき)、田楽…。仕事の合間に聞こえてくる懐かしい言葉に思わず耳をそばだてた。先週金曜夜のNHK番組『チコちゃんに叱られる』の「おでんの『でん』ってなに?」という問いの中でだ。
この二つは、筆者が子供の頃(小学校前だからちょうど“5歳”の頃かもしれない)、母からよく聞いていた言葉だ。
実際に「関東煮」という料理を食べた記憶はない(恐らく「おでん」を食べた記憶として残っているのだろう)が、その言葉ははっきりと覚えている。また、田楽の方は、鉄串を2本刺した豆腐やジャガイモにちょっと甘めの味噌(みそ)ダレを付けて、よく焼いて食べていた。
不思議なことに、どちらも中学生になってからはまったく聞かなくなった。いや、田楽の方は、日本史で田楽・猿楽について学んだ時に、どうして昔食べた豆腐やジャガイモの田楽と同じ発音なのかなと思ったが、その時は深く考えなかった。
そして、大学入学のため四国から東京に出てきてからは聞いていなかったので、テレビから聞こえてくるその言葉が妙に心に残ったのだ。しかも、幼い頃からのバラバラの記憶が、全て「おでん」とつながっているという。「へえ、そうだったのか」と、“チコちゃん”に一本取られた気分だった。
関東煮や田楽で思い出したのが「かしわ」という言葉だ。昔、故郷でよく聞いたのに、東京ではほとんど聞かない。鶏肉のことだが、主に関西以西で使われているらしい。
当時、親たちは海外産の食用鶏肉ブロイラーと使い分けていた。戦前からの鶏肉(かしわ)の味に慣れた親の世代には、ブロイラーははっきりと違う味だったのだろう。今は鶏肉がほとんどブロイラーなので、田舎でも高齢者以外は誰も「かしわ」を使っていない。身近な歴史も辿(たど)れば結構面白い。テレビに乗せられるのは癪(しゃく)だが、素朴な疑問は大切にしたい。
(武)