薬物情報ネットで氾濫
「ダメ。ゼッタイ。」
日本薬物対策協会共同代表 樋田 麻由美さんに聞く
 小中学生を中心に薬物の危険性などを訴える講演会を全国各地で開く日本薬物対策協会・共同代表の樋田麻由美さんに、若年層に大麻などの薬物が広がっている問題について聞いた。
(聞き手=佐藤元国)
「害少ない」誤情報が拡散
乱用者の低年齢化加速懸念も
薬物乱用における最近の特徴的な傾向は。

とよだ・まゆみ 静岡県出身。日本薬物対策協会共同代表。2008年より薬物乱用防止講演を開始し、これまで3万人以上の子供たちに薬物の真実を伝える。一児の母としての視点を含めた、情熱的な講演は大好評を得ている。
大麻(マリフアナ)乱用が広がっていることだ。世界的に合法化の動きがある中で、日本でも大麻の有害性を否定し、合法化の動きとともに誤った情報が大量に拡散されている。「自然のものだから大丈夫」「合法化されているような国もあるから安全だ」などといったものがある。大麻乱用が広がることで、乱用者の低年齢化が加速する懸念もある。
若者に大麻が広がる理由は。
大麻はゲートウェイドラッグ(入り口となるドラッグ)といわれる。摂取方法も簡単で、タバコのように吸ったりするので子供たちにとって手を出しやすい。「たばこやアルコールより害が少ない」「自然なもの」などといった誘い文句もある。塾やバイト先、SNSなどで仲良くなった人に誘われると断れない。学校に馴染(なじ)めない場合、インターネットで知り合った友達に会いに行くような子供もいる。
若者に広がるのはインターネットが原因か。
私たちが思っているよりもインターネット世代は情報を得るスピードが速い。インターネット上では、大麻の栽培方法の動画など薬物に関する情報が山ほど出回っている。さまざまなSNSがあるが、どれを通じて広がっているのかも簡単に把握できない状況だ。
若年層にどのように広がっている。
一つは身近な存在からの誘惑がある。例えば、神奈川県のある地域では小6の男児が高校生の兄から大麻をもらっていた事例があった。兄は高校を中退した元同級生から大麻を渡され、弟に吸わせていた。お兄ちゃん自身も悪いと思わず安全だと思って小6の弟に薦めてしまった。
講演先でも、帰り際に門で待っていて「今、彼氏に薦められているけど、どうしよう?」と話してきた子供もいる。そうやって身近な人や好きな人に言われてしまうと、悪いと分かっていても子供は断れない。だから真実をどれだけ早く伝えていけるかが問題だなと、特にここ1年で痛感した。
子供たちの薬物への危機意識の現状は?
子供たちは素直だ。中学生まではある程度は守られているが、高校生になったら塾やバイト先の人など外の人とも触れ合うようになる。そこで学校以外で年上の人から「あんなの嘘だよ、大丈夫だよ」と言われてしまうと高校生でも信じてしまう。それを危惧している。
私たちが実施した小中高生対象の意識調査では、「1回だけなら問題ない」と思っている子もいる。それだけ危険性について知られていない。
どのようにその危険性を訴えているか。
小中学校での子供たちへの講演では、実際に体験者の証言の入った7分ほどのDVDを冒頭に見せるようにしている。「自分はマリフアナから次(のより効能の強い薬物)には絶対にいかないと思っていたが、すぐにいってしまった」といった元薬物常用者本人の声で話しているので、薬物の危険性をしっかり理解できている様子が、事後アンケートの感想から伝わってくる。
具体的な情報としては、THC(大麻に含まれる脳に作用する成分、酩酊(めいてい)感や幻覚作用などをもたらす)の含有量の多い品種が生み出され、20年前の数倍にもなる強力な品種が出回るようになっている。それにより、心筋梗塞のリスクや倦怠(けんたい)感、脳の記憶を司る海馬という部分の収縮などが起こり脳が縮むことが科学的に立証されている。それにより、物忘れが激しくなったり、視覚や聴力も弱くなる。そういったことを伝えて「自分の名前も住所も思い出も全部忘れてしまうけど、それでもいい?」と尋ねながら危険性を訴えている。
保護者はどの程度危機感を持っているか。
ほとんどの保護者は「うちの子に限ってそんなことは」と思っている。薬物についてもあまり知らず、縁遠く関係ないと考えている。有名人や海外の一部の悪い人が使うもの、というイメージだ。来年からは、親たちに薬物がどれほど身近になっているかを知らせる活動に力を一層入れていくつもりだ。
誘われて断れない子と自制できる子の差は。
まずは薬物の正しい知識を持っているかどうかだ。どのように有害なのか、しっかりと理解していれば一線を越えることはない。一方で、自己肯定感が低く、心が傷ついた子供は誘われると手を出しやすい。現実逃避したい、辛いことを忘れたいという子供がそうなりやすい。当協会では米国の教育者L・ロン・ハバード氏の文献に基づき、大麻などの薬物の基本データを紹介し、薬物に一度手を出すとどのような人生の破壊が起こるか、巧みに誘惑される薬物からどのように自分の身を守るかについて講演している。効果的な薬物乱用防止教育とともに、家庭環境なども整えていくことも必要である。






