中国 フェイクニュースと武力で台湾工作
共産党政権の常套手段「嘘と威圧」
香港や台湾で中国共産党のスパイ活動をしてきたとされる王立強氏(27)が、豪政府に亡命を求めている。王氏の亡命申請が却下され中国に送還されれば、確実に死刑にされる命を懸けた試みだ。
王氏は香港では軍情報部に所属、韓国の偽パスポートを使って台湾にも出掛けていた。台湾総統選挙で蔡総統続投を阻止するため、メディアを活用してフェイクニュースや攪乱(かくらん)情報を流していることを暴露した。わが国では大きく報じられることはなかったが、台湾紙では1面トップの扱いで報じられた。
王氏の証言によると、一昨年の統一地方選で国民党を支援するため、ネット世論を誘導する「網軍」を編成したほか、2000万人民元(約3億円)を同党の候補者に迂回献金したとされる。
なお、共産党政権の常套(じょうとう)手段は「嘘と威圧」だ。二枚舌を使ったフェイクニュースで相手陣営の分断や混乱を図り、武威をちらつかせ脅しをかける。孫子の兵法では、戦わずして勝つのが最高の勝利とされる。謀略と威圧は、そのための強力な武器になる。
その中国の武威も近年、顕著となり、台湾への軍事的圧力を強めるばかりだ。
中国は昨年7月に公表された中国の国防白書で、台湾統一への強硬姿勢を従来以上に鮮明にした。習近平国家主席が昨年年初に行った台湾政策演説を踏襲し、「武力行使も放棄しない」と強調。「一つの中国」原則を認めない蔡政権を牽制(けんせい)した。
昔は台湾海峡の中台中間線を越えてくるような挑発行為はなかったものの、近年は当たり前のように中国人民解放軍の爆撃機や戦闘機が中間線を越えてくるばかりか、台湾を周回するような軌道で飛行したり、台湾周辺の海域でも頻繁に軍事演習を実施するようになっている。
しかも、空母「遼寧」が台湾を一周したり、年末には就役したばかりの国産空母「山東」を投入し、台湾海峡を航行させてもいる。
とりわけ空母の進出は、中国にとって大きな意味を持つ。
1996年の台湾初の総統直接選挙で、中国は弾道ミサイルを台湾近海に発射して威嚇した際、クリントン米政権は空母ニミッツとインディペンデンスの戦闘群2隊を台湾海峡に投入。中国は沈黙せざるを得なかった経緯がある。あれから23年、約4半世紀を経て台湾海峡に今度は、中国が2隻の空母を投入したのだ。
中国とすれば意趣返しというところだろうが、結果が逆効果に終わったということでは意味をなさない。掻(か)き立てられたのは恐怖より怒りであり、96年の時は李登輝氏支持の輪が広がり、多数票どころか過半数を得るまでになった。
今回も同様で、人民解放軍の指揮権を持つ習近平国家主席の浅知恵ぶりを露呈した。福建省での勤務経験がある習氏は、台湾のことを熟知しているとの評価があったものの、台湾の政治状況も民衆の心のひだも理解していない。