新春インタビュー 2020年どうなる憲法改正
令和2年、2020年が明けた。昨年末、安倍晋三首相(自民党総裁)は憲法改正について「決してたやすい道ではないが、必ずや私の手で成し遂げたい」と表明したが、残る総裁任期は1年9カ月。任期再延長の可能性も残されてはいるが、新年が首相の悲願である憲法改正の成否を占う重要な年となることは確かだ。自民党憲法改正推進本部の細田博之本部長と、独自の改憲案を公約する日本維新の会の馬場伸幸幹事長に、新年の改憲に向けた抱負、課題と展望を聞いた。
(聞き手=政治部長・武田滋樹、写真撮影=加藤玲和、デビット・チャン)
日本維新の会幹事長 馬場 伸幸氏
自民は審査会でも「決める政治」を
民主主義再生に資す国民投票
新年を迎え憲法改正への決意は。
憲法施行73年を迎えるが、人間に例えると3歳5歳ごろの服を73歳になってまだ無理やり着ている状況だ。昭和22年と令和2年は国内の状況も国際情勢も全く違う。国家の基本を決めているルールも時代に合った改正をすべきだ。
憲法の三大原則の一つに国民主権を謳(うた)っているが、一度も国民投票による憲法改正はしていない。憲法自体が、国民の意思によって定められたものではない。憲法施行後、マッカーサーが日本政府に対し民主主義のルール、国民主権から考えて一度早い時期に国民投票をすべきではないかと進言した記録が残っている。ところが当時は戦後の動乱期だったから、投票は一度も行われていない。
そういった観点で、国民の皆さんに対し、できるだけ早い時期に自分たちの国家の基本的なルールの時代に合った改正をお願いしたい。
今年、憲法改正はどの程度進むと展望するか。
そもそも憲法審査会は中山方式と言われ、できるだけ多くのメンバーが意見交換できるよう公正公平な運営が行われ、一方でその時の政局に左右されないという、2本立てが審査会のルールだった。
ところが今の維新を除く野党はすぐ国政の政局に絡め、国会が平常な状態じゃないので審査会は開かせない。開ける状況でも、いろいろ理屈をつけて開かせないことがずっと続いている。
憲法改正における国会の役目は、法案と違い改正原案を発議するところまで。自分たちで憲法改正するのではない。憲法のどの項目をなぜ、どのように変えるのか議論をして、国民の皆さん方に聞いていただく。そして、雌雄を決する国民投票をする時の判断材料を提供していくのが国会の役目だ。その国民の負託に応えるのは国会議員としての責務だ。
昨年も審査会で国民投票法改正が先送りされた。
それについては、改正された公職選挙法と中身は全く一緒だ。投票環境を向上させる7項目を改正するかどうかだけ。やはり改正案は採決をする。その次に、CM規制が重要だというのならそれを議論し始める。憲法改正項目もおのおのが準備をし始める。一つ一つを片付けていくべきだ。
審査会の幹事会で交渉の詳細は見ているが、絶対やらせないという勢力がいる。普通の委員会のように筆頭間で交渉して前に進む状況ではない。そこに与党は引っ張られているので、決める時は決めるよという姿勢を見せて一歩ずつでも歩んでいくことが根本的な解決策になる。
具体的には。
安倍政権は、戦後いろいろと積み残されてきた課題を一つ一つ片付ける「決める政治」をやって、百点満点ではないが、評価されている。ただ、この憲法問題だけは、これまで繰り返されてきた「一歩引く政治」になっている。どこかで自民党も決断することが必要な時が来るはずだ。
憲法審査会は、設置目的として改正項目を審査して議論することが明文化されている。今は本来の趣旨目的から外れているので、しかるべき時に衆参の議長なり審査会の会長が、改正項目がある政党は出してください、ない政党はないで結構ですからと。そういうリードも必要なのではないか。
9条への自衛隊明記をどう考えるか。
安倍総理の自衛隊の存在が違憲であるということを解消したいとの考えは理解はできる。ただ、自民党の条文イメージは、少し総理の思いと違う文言も含まれている。例えば「必要な自衛の措置」とか、「内閣総理大臣を指揮監督者とする自衛隊」という文言は、自衛隊が違憲であるということを解消することから数百段上まで上がっている。もう少し総理の考え方と自民党の条文イメージを合わせないと国民に混乱が生じる。
維新は大阪都構想で住民投票を経験している。
日本全国の選挙でどんどん投票率が下がっている。ところが大阪都構想の住民投票は投票率67%。大阪の選挙では驚異的な数字だ。今は自分の思いが直接結果にコミットする機会はない、間接民主主義だから。直接民主主義で大阪の未来が左右できることに意義を感じた有権者が、たくさん投票に行ってくださった。そういうシチュエーションをつくるのは政治家の仕事だ。
憲法改正の国民投票をすることは日本の民主主義の再生、レベルを上げることにもつながっていくと思うので、国会議員はそういう意識をもって改憲問題に向き合っていくべきだ。。
自民党憲法改正推進本部長 細田 博之氏
早く投票法通し、改憲内容討議を
国民のためにならぬ議論回避
新年を迎えて、憲法改正への決意は。

ほそだ・ひろゆき 昭和19年生まれ。東大法学部卒業後、通産省課長、議員秘書を経て、平成2年、衆院選初当選。沖縄北方担当相、内閣官房長官、自民党幹事長・総務会長(2回)など歴任。島根県出身、当選10回。
憲法は国家の骨格を決める基本法だ。今の憲法が施行されて73年たって、当時の状況がそのまま当てはまるかというと、どうしても不具合がある。憲法自体が合わない時は、それを直さなくてはいけない。
例えば、憲法9条は、GHQ(連合国軍総司令部)が日本は太平洋戦争を起こし世界の平和を乱したとの考え方の下に、非武装中立的な思想をもって、一切軍隊を持ってはならんということで作られた。
ところが、その後、共産主義という大変な脅威が出た。ソ連が核兵器を開発し、中国も共産化して、そのバックアップで朝鮮戦争が起こった。これは危ないということで米国は、自衛のための戦力は持つべきだと事実上、対日政策を転換した。
政府の9条解釈も変わって警察予備隊が組織され、独立後に自衛隊となった。
自衛隊は既に65年の歴史があり、国を守るための実力組織ということで自衛隊法もあるが、学者の間には、9条2項に戦力不保持条項があるのに自衛隊は陸海空共に武装集団ではないか、だから憲法違反だという人がいる。
政府は、自衛のための必要最小限度の実力組織を持つことは憲法違反ではないと説明しているが、中学校の公民の教科書主要7社のうち6社は、自衛隊は憲法違反という人がいますよ、と書いてある。子供たちが見れば、憲法違反かもしれないと思うわけだ。
われわれはきちっとした独立国家、平和国家として周辺の安保脅威から自分たちを守ることは当然であり、自衛隊の保持は当たり前だが、その点がまだ論争の種になっている。安倍首相はじめわが党が自衛隊を憲法に位置付け、今ある自衛隊のまま認めていこうというのは、誰もが自衛隊を憲法違反だという議論はしないで済むようにしようということだ。
9条改正には護憲派が強く反発している。
立憲民主党を中心に、日本共産党もそうだが、自衛隊の規定を9条に入れると日本がおかしくなると言って、議会において議論をしない。議論をすれば押し切られるという論理で、議論を避ける状況が続いているが、これは重大な間違いだ。
憲法改正の本体について何も議論しないことは誰の得にもならない。反対勢力が言うように、3分の2を使って強引に改正を進めれば世論はかえって離れる。野党に反対する理屈があるのなら、具体的に指摘してその議論をすればいい。
例えば、9条改正すれば自衛隊が海外に派遣され、自衛隊員が海外で死んでしまうのではないか、平和安全法が憲法違反であると言っている。憲法9条のあるべき姿、自衛隊のあるべき姿、日本国の取るべき安全保障に関する姿勢について議論すれば、それだけ国民にとって分かるようになる。
法律は衆参両院で採決して終わりだが、憲法は過半数が必要な国民投票があるので、国民が判断する。それがまさに民主主義だ。
昨年の臨時国会で国民投票法改正はまたもや先送りされた。
7項目の改正案は公職選挙法で認められた中身でしかないが、1年以上たなざらしになっている。改正案の質疑・採決は国会の責任だ。
それからコマーシャル規制の問題がある。改正原案の発議から国民投票までの間に、大政党などが何倍ものお金を使って宣伝し、不平等な環境の下で投票することになるのではないかということだが、そんなことは実際には起こらない。
どんな選挙でも、立候補者は同一の枠で新聞もテレビも出す。選挙公報も各党、各候補を平等に分けている。だから、実際に国民投票で賛否を問う時に、コマーシャルでそんなに差がつくはずがない。協議していけば紳士協定でも条文改正でも全然問題にならないはずだ。
自民党は4項目の改正条文イメージ(たたき台原案)をまとめているが。
私が前回本部長を務めた時に、この4項目(自衛隊明記、緊急事態対応、参院合区解消、教育の充実)に限って、まず改正しようじゃないかと提示したが、各党から具体的に提案があれば、自民党としても積極的に検討する、という意味だ。新年にできるだけ早く、まず投票法の合意を得て、通すべきものは通した上で、かつ並行的に憲法改正の内容について議論をして「幅広い合意」を目指したい。






