紛争で子供の犠牲が増大、でも世界は鈍感になっている
グテレス国連事務総長は8月、「子供(17歳以下)と武力紛争」年次報告を安保理に提出した。昨18年の状況をまとめたものだが、「世界20カ国で条約と議定書の重大な違反(戦火による殺傷、子供兵士の使用、性的暴力、拉致、学校や病院への攻撃など)が2万4000件以上も起き、子供の死傷が(06年にモニター開始以来の)最高に上った。政府組織や国際軍による違反も驚くほど増加している」と強い懸念を表明した。(以下は全て子供だけの数字)
アフガニスタンでは戦火による死者927人(09年以来最多)、身体障害が残る重傷2135人。民間人死傷の28%が子供だ。44%がタリバンはじめ武装勢力、34%が政府軍など、9%が外国軍による。学校や病院への攻撃も増え254件に上った。
シリアは死者1106人、重傷748人。6割以上が政府軍側による。学校・病院攻撃は225件で11年の内戦開始以来最多である。
イエメンは死者576人、重傷1113人。加害者はサウジアラビア主導の政府支援連合軍、フーシ派反政府軍、政府軍の順。学校や病院への攻撃は44件だ。
イスラエル・パレスチナでは、パレスチナ側に死者59人、重軽傷2756人と、14年以後最多の被害が出た。
ただしどの数字も国連が確認できた分だけである。そしてこれとは別に、イエメンでは、昨年11月、NGO「セーブ・ザ・チルドレン」が、15年の内戦開始以来4歳以下の8万5000人が餓死した可能性がある、と訴えた。サウジ主導軍が空爆で国際救援物資輸送を阻んだ影響が大きいという。
子供兵士の徴集・使用の世界一は、アフリカのソマリアで2300人。次がナイジェリア1947人。シリアは806人。大半は反政府ゲリラ・テロ組織による。戦闘、自爆テロ、人間の盾、性奴隷など用途は様々だ。
NGO「子供兵士インターナショナル」が今年初め、国連報告をもとにまとめた数字では、12年→ 17年に世界で徴集・使用は2・59倍に増えた。ナイジェリアのイスラム過激派「ボコハラム」は、17年に同国と隣国で203回も子供を自爆テロに使ったとか。
事務総長報告には、子供に大損害を与えた武力組織や軍隊を名指す「恥のリスト」がついている。今年リストに載ったのは、「改善措置をとらず」(Aリスト)が非政府組織48、政府組織3、「改善措置をとった」(Bリスト)が非政府9、政府8である。
今年も多くの子供が死傷している。だが事務総長が強い懸念を表明しても、安保理も世界のメディア、世論も感度が弱い。子供たちの悲惨に慣れてしまったのか。
例えば、子供兵士問題への関心が最も高まった2000年前後は、そのドキュメンタリーが多数作られ日本でも沢山報じられたが、もうニュースにならない。
恥のリストに政治配慮が目立つから、関係国の反応が鈍いのだとNGOは批判する。イスラエル軍もアフガニスタンの政府軍や外国軍もリストに名がない。イエメンでのサウジ連合軍は16年にリスト入りしかけたが、圧力で削除された。現事務総長になって記載されたが、Bリスト。「改善措置をとっていないのに」と批判されている。
15年にギリシャへ渡る途中で水死した3歳のシリア難民、アイランちゃんの遺体の写真は、世界の心と欧州の難民政策を揺さぶった。その後、地中海のボートピープルの総数は減ったが、欧州側の対応の変化もあり水死率はむしろ高く、子供たちも含まれている。だが写真・映像はほとんど伝えられない。
子供たちの苦難に今一度敏感になりたい。
(元嘉悦大学教授)






