慰安婦、徴用工の像より 原爆の子の像を広げたい

山田 寛

 

 8月、ソウルの日本大使館前の「慰安婦少女像」を訪れ、奇妙な落ち着きを感じた。

 訪韓する度に見てきたから、大使館風景の一部として眼(め)にとけ込んでしまったのか。

 慰安婦像は、韓国内と米国、中国、ドイツなど8カ国・地域に50体以上も設置されている。こんな調子で、22世紀にはどこの慰安婦像も完全に風景の中に定着するのだろう。

 改めて強い憂慮にとらわれた。像の碑文には「日本軍の強制連行」「性奴隷」「総数20万人」「大多数は囚(とら)われのまま死亡」など、日本が完全フェイクと見なす文言が多く並ぶ。このままではそれも事実として後世の世界に定着してしまいそうだ。

 9月、釜山市議会は、労組などが日本総領事館前に設置しようとして論議を呼んだ「徴用工」像について、路上設置を許可する条例案を可決した。徴用工像は16年に京都に建てられた後、韓国内に6体が設置された。

 10月、神風特攻隊の出撃開始から75年。親韓派の女優、黒田福美氏が建立しようとした慰霊碑の運命流転を思う。特攻隊員の韓国人青年の霊が故郷に帰れるよう祈ることから出発した。彼の郷里近くの市に、特攻隊員18人をはじめ2万人以上の韓国・朝鮮人の軍人軍属の死者全員の霊が安眠できるよう「帰郷祈願碑」の建立を計画し、市や遺族や一般市民の賛同を得て08年に碑は完成。だが反日団体の猛反対で挫折し、その後ソウル郊外の寺の境内に設置されたが、また反日団体により倒された。碑は横倒しのまま置かれている。

 慰安婦像、徴用工像の設置も、黒田氏の慰霊碑への妨害も、親北市民団体、労総、左翼政治団体など反日運動勢力が進めた。

 慰安婦は「強制された性奴隷」ではなく、朝鮮半島出身労働者のうち徴用工は少数で、大半は自分の意思で働きに来た。とすれば、特攻隊員ら軍人も同じはずだ。日韓併合と戦争という歴史の中、各々の境遇でそれに協力する運命の下で皆一生懸命生きた。だが反日政治運動にとっては、担ぐ神輿(みこし)と非難の標的とを強引に区別することが絶対必要なのだろう。

 憎悪をあおり、政治利用するための像は品がない。今年6月英国で、ベトナム戦争中の韓国軍の性的暴行を告発する像が公開された。その暴行と虐殺は最悪レベルの戦争犯罪の可能性が強い。日本がそうした像の国際PRに協力し、韓国に反撃すべしとの声もある。だが、世界を舞台に憎悪合戦を展開するのはゾッとしない。

 そこで提案したいのは、広島の「原爆の子の像」を「平和の子の像」として世界に広げる運動だ。以前本欄でも書いたが、更にきちんと提案したい。韓国は慰安婦像を「平和の少女像」と称するが、その名称は原爆の子の像の方に相応(ふさわ)しい。反米の像ではない。米国が原爆を投下したとは書かない。そして、日本人に加え韓国・朝鮮人も多数犠牲になったことを記す。

 広島、長崎に建立されている韓国・朝鮮人原爆犠牲者慰霊碑によれば、広島で2万余人、長崎で1万人も犠牲になったという。しかし、16年のオバマ米大統領の広島訪問に対し、韓国メディアは「戦犯国に免罪符を与えるな」と猛反対した。犠牲者を悼むより反日優先だった。今、放射能問題は東京五輪攻撃に利用されている。

 反日も反韓も政治利用もなく、後世まで純粋に平和を訴え続ける像を広げたい。

 ノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の運営委員は、米朝首脳会談のための北朝鮮一行の旅費支援を熱心に申し出たが、平和賞の賞金も「平和の子の像」建立に使った方がよほど有益と思われる。

(元嘉悦大学教授)