18年の国際関係、ショックだった言葉

山田 寛

 今年の国際関係の中で、衝撃を受けた六つの言葉(群)を並べたい。
 ①6月の米朝首脳会談の際のトランプ米大統領の金正恩・朝鮮労働党委員長への賛辞は大衝撃だった。「率直」「立派」「有能」「賢明」「民を愛している」「誰にも反対されない強力指導者。皆姿勢を正して彼の話を聞く。米国民もそうしてほしい」

 リップサービスでも、自由世界の総代、米大統領には、独裁者への賞賛(しょうさん)と羨望(せんぼう)など絶対口にしてほしくない。金―文(韓国大統領)―トランプ・トリオは、一時ノーベル平和賞の有力候補視されたりもした。拉致と抑圧と粛清に平和賞? 冗談じゃない。

 ②「デマ。断じて真実ではない」

 11月、パプアニューギニアで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の途中、中国代表団員が自国の意に適(かな)う宣言文を求め、議長国外相に会見を強要、力で執務室乱入まで試みた。そのニュースを中国高官がこう否定した。

 直ちに判(わか)る嘘(うそ)も平然とつくとは。ウイグル人強制収容所を「職業訓練センター」と称し、「華為技術」が政府との密着関係を否定しても、だから信じ難い。嘘がバレても力で非難を封じる自信が十分あるのだろう。

 ③「日本の政府開発援助(ODA)の貢献を高く評価する」

 10月の日中首脳会談で、安倍首相が対中ODA終了を伝えた時の習近平国家主席の一言だ。40年間、総額3兆6000億円で大経済成長を支え、結果的に軍拡や経済侵出も支えた。20年前、私は新聞社の外交提言作成班長だった。すでに対中ODA終了論が出始めており、提言案に含めた。だが重役に呼ばれ、「だめだ。わが社の北京特派員が追放されたらどうする」。

 新聞社すらそうだった。外務省はそれ以上だろう。中国は日本の援助をろくに国民に知らせず、最後にやっと「評価」と言った。「謝々」ではない。

 ④「自国のことは自分たちが誰より知っています」「報道の自由は無関係。公的秘密法に違反したからですよ」

 ミャンマーの最高指導者、アウン・サン・スー・チーさん。前者は11月にシンガポールで、ペンス米副大統領からロヒンギャ迫害を非難された際の反論。内政干渉お断り、である。後者は、その迫害を調査して投獄された記者2人の釈放要求への反論だ。

 2人は警察のわなと植民地時代からの古臭い法律で捕まった。22年前、軍政下で迫害されていた彼女に会見した時は、外圧を強く要望、日本の記者も頑張ってねとハッパをかけられたのに。彼女も老いた。

 ⑤「この日本軍慰安婦問題研究所を、戦争・人権・女性・平和研究のメッカにする」

 8月の開所式で鄭・女性家族相(当時)は宣言した。

 韓国は、慰安婦支援財団解散や「元徴用工」判決など、日韓ゴールポストを壊し続ける。01年に新大久保駅で線路に転落した乗客を救うため死んだ韓国人留学生、李秀賢さんの慰霊碑が同駅にある。碑は日本の嫌韓世論増大をどんな思いで見つめているか。慰安婦像をいくら立てても、ベトナム戦争中の韓国軍の蛮行もきちんと研究しなければ、メッカにはなれない。

 ⑥「この国は子供の生き地獄と化した」

 国連児童基金(ユニセフ)地域代表の嘆きだ。15年から続くイエメンの内戦。サウジアラビアとイランの代理戦争でもある。先週一部停戦が始まったが、和平の見通しは立たない。

 空爆で子供1300人が殺され、食料・医薬品などの補給路封鎖で、5歳未満児8万5000人が飢えと病気で死んだ。更に180万人(子供人口の13%)に死の危険が迫る。生き地獄への世界の関心はなお低い。

(元嘉悦大学教授)