親北史観根強い韓国、軍の教育も対北より反日

迷走する北非核化 (中)

 先月、北朝鮮による韓国進攻で始まった朝鮮戦争(1950~53年)などの展示物があるソウルの戦争記念館で韓国の安保危機を憂う集会があった。元国会議長や国防相経験者らが相次ぎ登壇、北朝鮮に非核化を強く迫らない文在寅政権を辛辣(しんらつ)に批判した。

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先月、ソウルの戦争記念館で開かれた南北軍事合意の危険性を訴える集会(主催者提供)

 「北非核化が急がれるのに北朝鮮への制裁を緩和すべきだとして金正恩を弁護している。北朝鮮に対する核保有国容認を手伝うもので、アジアや欧州の指導者から白い目で見られる」(朴寛用元国会議長)

 集まった500人を超える予備役将校たちは皆、文政権に「はらわたが煮えくり返っていた様子」(集会主催関係者)だったという。

 9月の南北首脳会談での軍事合意に基づき、双方は軍事境界線を挟み陸・海・空における軍事力削減を始めた。だが、それは一言で「過去にも南に攻め入り、今後もその恐れがある攻撃者・北朝鮮と、先制攻撃したことのない防御者・韓国との間で交わされた不平等合意」(元韓国海軍関係者)に等しい。「敗戦国の降伏文書」をのむように韓国側が一方的な抑止力低下を余儀なくされている。

 なぜ文政権は「質的変化の兆候が秋毫(しゅうごう)もない北朝鮮の金正恩政権」(李鐘九元韓国国防相)が非核化に応じると信じ、現在の南北融和ムードを「外交成果」と自画自賛するのか。元韓国外務省幹部はこう指摘する。

 「文政権参画メンバーの多くは、日本統治が終わった後に韓国は親日派の力を借りて誕生し正当性がないが、北朝鮮は抗日パルチザンが建国し民族の伝統性を受け継いだという親北史観の影響を強く受けている。彼らには、親日派の流れをくむ韓国保守の功績は評価せず、逆に金正恩氏は過ちを犯しても正義であり偶像の対象だという心理的パターンがある」

 こうした価値観は1980年代の学生運動以来、政権だけでなく現在、国会や地方自治体の議員、官僚、判事、学校教師、報道記者などとして各界で活動する人たちに浸透し親北路線を支えている。

 文政権が今、北朝鮮に厳しい韓国保守派を「積弊」と断じ、徹底的に司法の裁きを受けさせようとしている背景にもこうした認識があるとみられる。韓国で「左派革命が進行中」とする一部主張もあながち誇張とは言えない。

 驚くのは、保革の隔てなく一貫した安保教育が施されるべき現役軍人にも一部で反日親北思想が刷り込まれていることだ。軍の幹部や兵士ら数十人から数百人を集めて行われる「安保講演」では通常、北朝鮮がなぜ韓国の脅威であり、特に核問題は直接的脅威であることが語られるが、文政権発足以降、「反日歴史を教える講師に交代し、北朝鮮を主敵と見なす講師は呼ばれなくなりつつある」(元安保教育講師)という。

 年末が迫り、南北首脳会談で合意された金正恩朝鮮労働党委員長の年内ソウル訪問は難しくなろうとしているが、文政権は年明け早々の実現に意欲を示している。

 金正恩氏としてはソウル訪問で、2回目の米朝首脳会談を前に対米交渉力を高め、自国民には堂々と訪韓する姿を誇示しようとするかもしれない。金正恩氏の思惑がどうあれ文在寅式に言えば「正義」は急げ、なのだろう。

(ソウル・上田勇実)