南北が反日共闘行事、訪朝要請に鳩山元首相前向き

迷走する北非核化 (下)

 今年の新年辞で北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が打ち出した対話路線は、韓国・文在寅政権が検証もせずこれを無条件に歓迎することで、北非核化の進展があいまいなまま韓国と北朝鮮が歩調を合わせ米国に制裁解除や終戦宣言などを促す構図を生み出したが、もう一つの南北共闘も勢いづいている。歴史認識問題をめぐる反日活動だ。

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今年8月訪朝し行事開催について協議した韓国の安富洙アジア太平洋平和交流協会会長(右から2人目)と北朝鮮の朴チョル朝鮮アジア太平洋平和委員会副委員長(右端)、金聖恵・統一戦線策略室長(同3人目)=安氏著書から

 先月、軍事境界線から20㌔余り南に位置する京畿道高陽市のホテルで「2018アジア太平洋の平和・繁栄のための国際大会」が開かれ、北朝鮮から李種革・朝鮮アジア太平洋平和委員会(以下、朝鮮ア太)副委員長が出席した。李氏はあいさつで事前に準備された原稿を無視し日本批判をぶち上げた。

 「日本当局は、過去、朝鮮人民に対し犯した日帝(日本帝国主義)の罪を絶対許すまいという北と南の決然たる意志を直視すべきだ」

 韓国ではこれを前後し、大法院(最高裁)が日本企業に対する元徴用工への賠償命令判決を確定させ、陳善美女性家族相はいわゆる従軍慰安婦合意をめぐる日韓合意に基づき設立された「和解・癒やし財団」の解散を発表した。文政権の反日路線が鮮明となった時期に北朝鮮の政権幹部が韓国での反日行事に参加したのだ。

 李氏らを行事に招待したのは韓国の社団法人「アジア太平洋平和交流協会」。14年前から日本統治時代の国家総動員法によって強制的に日本に連行され犠牲になったという朝鮮半島出身者の遺骨を返還させる事業に取り組んできた。協会の安富洙会長は中国にある支部を通じ北朝鮮と人脈を作り、今回訪韓した李氏とは公然と腕組みして歩くほどの仲だ。

 安氏らは今年8月、国際大会に北朝鮮代表団を派遣するよう要請するため訪朝し、朝鮮ア太の朴チョル副委員長や南北対話でお馴染(なじ)みの統一戦線部の金聖恵・統一戦線策略室長ら政権幹部と協議。今月下旬にはポンペオ米国務長官のカウンターパートである金英哲・統一戦線部長から「いろいろ話したいと直々に訪朝要請があった」(安氏)ため、多忙の中だったが無理を押して訪朝し協議したという。

 安氏は自らの訪朝目的を「遺骨返還という純粋な趣旨に賛同した北朝鮮との連携」と説明するが、一民間人が北朝鮮政権のそうそうたる幹部たちと直(じか)に協議を重ねるのは通常では考えられない。北朝鮮が非公式ルートを使って南北の反日共闘を強めようとしているのか。

 今回の行事には鳩山由紀夫元首相も招かれた。鳩山氏はあいさつで「一度謝罪したから二度としなくてもいいと言うなら傷を負った者は決して満足しない」と例によって自虐論を披露した。最初は対話を拒んでいた李氏も鳩山氏の話を聞き態度を変え、2人は通訳を介し話し始めた。李氏が訪朝を要請すると「鳩山氏は前向きに検討すると応じた」(安氏)という。

 非核化そっちのけの韓国との反日共闘に“良心的日本人”を巻き込み、日本人拉致問題への対応より日朝国交正常化とそれに伴う巨額の戦後賠償受け取りを先行させたいのが北朝鮮の本音だ。独立運動(1919年3月1日)から100周年の来年、南北はさらに攻勢を強めそうだ。

(ソウル・上田勇実)