露が中距離核戦力条約に違反

ビル・ガーツ

 ロシアのゲラシモフ参謀総長が同国の国営メディアで、最大射程4000㌔の精密誘導ミサイルの部隊が配備されていると明言し、1987年中距離核戦力(INF)全廃条約のロシア軍による重大な違反が明確になった。

 ゲラシモフ氏は11月6日、国防当局者との会合で、ロシア軍は戦闘でこれらのミサイルを使用する計画、情報収集、データ処理のためのハードウエア、ソフトウエアを配備、「これによって(4000㌔先の)標的を攻撃できる精密誘導ミサイルを運搬する本格的な部隊を発足させることができた」と語っている。

 ゲラシモフ氏がここで触れたミサイルは、カリブル巡航ミサイルを指し、最近シリアで使用された。

 だが、このミサイルは、レーガン政権時のINF全廃条約に抵触しているとみられている。この条約では、射程500~5500㌔の地上配備核・通常ミサイルの保有は禁止されている。

 ロシアはこれまでにも、INF全廃条約に抵触する新型の地上発射巡航ミサイルの試験発射を実施している。米国防総省はこのミサイルをSSC―X―8と呼んでいる。

 米国防総省の元核政策担当高官で、公共政策研究所アナリストのマーク・シュナイダー氏は「参謀総長の発言はまぎれもなくロシアによるINF全廃条約への重大な違反を示している」と語った。

 米国家航空宇宙情報センターは最新の報告で、ロシアの射程2500㌔のカリブル・ミサイルが地上発射巡航ミサイル(GLCM)として配備されたと警告していた。

 シュナイダー氏は「プーチン大統領は2015年12月、カリブルは核を搭載できると述べた。核、通常弾頭のどちらも搭載可能な射程2500~4000㌔のGLCMは、NATO(北大西洋条約機構)やロシア周辺国にとって大きな脅威となる」と警鐘を鳴らす。

 米国家安全保障会議(NSC)兵器拡散防止担当部長のクリス・フォード氏はこの夏、さまざまな選択肢が検討されていると指摘。核・ミサイル防衛政策担当国防副次官補のロブ・スーファー氏は、6月の上院公聴会でINF全廃条約の抵触は受け入れられないと語った。

 スーファー氏は「ロシアのINF全廃条約違反を解決することは、この政権の最優先事項だ。…米国はこの違反からロシアが重大な軍事的優位を獲得することのないよう具体的な措置を検討しなければならない」と訴えた。

 議会からは、国務省がロシアとの兵器交渉を円滑に進めるために、条約違反を隠蔽してきたとの批判が数多く出ている。

 オバマ前政権の軍備管理担当国務次官ローズ・ゴットモエラー氏は、条約違反に目をつむったと非難されてきた。しかし、同氏は現在、NATO高官を務め、トランプ政権当局者らがこの重大な条約違反を公表しなかった理由について説明を求めることができないという。