開かれた国民皆保険への道
補償範囲の義務付け廃止を
オバマケアの廃止、見直しはまだ死んではいない。宣言されたが、それは、今のところ大統領が手を引き、下院共和党が意見の違いを埋められないという段階にある。
だが、このどちらも、いつまでも続くものではない。共和党内の各派間に考え方の違いはある。しかし、この行き詰まりを生んだ原因は、手順であることを見逃してはいけない。手順は容易に変えられる。
下院指導部は、上院を60票ではなく51票で通過させられるよう、「和解」に必要な微妙な条件を満たす法案を作成した。しかし、それによって、魅力的で、市場志向の改革案が排除されることになり、オバマケアの行く末は「フェーズ3法案」と呼ばれる今後の法案に託されたが、このフェーズ3法案が実際に提出されない可能性がある。
しかし、必要最低限のものだけを残して提案は葬り去られた。そのため次に進むしかない。フェーズ3改革を盛り込んだ法案を通過させ、上院に送るということだ。
◇9月が見直しの好機
9月が、廃止・見直しを復活させる好機となりそうだ。保険業者が次年度に向けて保険料を見直すときであり、オバマケアの年間コストの高さに驚くときだからだ。そのときまでには、多くの保険業者が保険市場から離脱しているはずだ。選択肢は減り、サービスの質も低下する。これによって、現在の議論の中で出てきたオバマケアへのノスタルジアは消えるはずだ。
その時点で、下院指導部は、不法行為法改革や、州ごとに保険に加入することを可能にするなどのフェーズ3条項を盛り込んだ廃止・見直し案を提示すべきだ。これができれば、コストを大幅に下げられる。
さらに重要なのは、保険の補償範囲の義務付けを廃止し、加入者の希望や必要性にかかわらず、特定の医療給付をすべての保険に盛り込むことを義務付けた条項を撤廃することだ。
義務付けないのがベストだ。消費者に決めさせるべきだ。60歳の夫婦に産科の補償は必要ない。なぜ支払いを強制しなければならないのか。ほかの人のことは分からないが、私には授乳に関するサービスは必要ない。
そうなれば、オバマケアの押しつけがましい規制の撤廃を求める下院フリーダム・コーカスの要求を満たすことができる。「基本的な医療サービス」を否定されるべきでないことを理解すべき穏健派を脅す必要もなくなる。医療保険推進者らが、全員が加入すべきだと決めたものであっても、加入する義務は誰にもない。
廃止・見直し法案が下院を通過しても、上院で議事進行妨害でつぶされる可能性もある。その場合、上院民主党は、説明を迫られ、自分の首を絞めることになる。しかし、新たな議論が生まれ、修正がなされ、下院に差し戻されて、古風な両院協議会で妥協案に至る可能性もある。これこそが、大きな進展だ。
これは手順だ。柔軟に変えられる。しかし、オバマケアの見直しの運命を最終的に決めるには、思想的な検討が必要だ。オバマケアは、実行不可能なのかもしれない。確かに命運は尽きたが、すでに国民の意識の奥深くに刻まれている。国民皆保険という考え方が行きわたっている。
この大前提を受け入れ、誰もが医療保険に加入できるべきだという考え方がすでに浸透している。ライアン下院議長ですら、「すべての米国人が、質の高い医療を適切な費用で受けられることが目標だ」と主張、皆保険を自身の改革の大前提としている。オバマケアの廃止で保険を失う人々が出る可能性について共和党がいかに敏感に反応してきたかを見れば分かる。
◇医療保険は権利
全米にコンセンサスが行きわたり、医療保険は権利だという考えが広まっている。これはこれまでになかったことだ。これは将来にも大きな影響を及ぼす。つまり、国営の単一支払者制度に向かっていることを意味する。オバマ大統領はかつて、このような制度を支持しながらも、時期尚早だと考えていることを明らかにしていた。今こそその時なのかもしれない。
オバマケアが解体される一方で、民主党は、この複雑怪奇な仕組みの残骸を放棄し、簡素で、国民全員に医療を提供する制度を追求してもそれほど失うものはない。共和党にとっては、国民に、市場ベースの制度にとどまり、できれば、手続き上の理由から最新の提案から排除されていた条項すべてを盛り込んだ制度を維持するよう働きかける最後のチャンスとなる。
しかし、最終的に、単一支払者制度が採用されたとしても驚くことはない。トランプ大統領が、国内の空気を読み、ディズレーリ英首相が1867年に選挙権の大幅拡大でホイッグ党を下したように、180度転換して、単一支払者制度を受け入れてもそれほど驚きはしない。
どう表現すればいいか分からないが、そうなれば、米国にとってのクラカトア(1883年にインドネシアの火山噴火でできた島々)だ。
(チャールズ・クラウトハマー、3月31日)






