依然危ういトランプ大統領
THAAD予算めぐり混乱
私の反トランプの友人はほぼ全員が、安心したと言っている。もっと状況が悪くなることもあり得た。友人らはもっと悪くなるだろうと思っていた。不安はまだ消えてはいない。しかし、国際秩序は保たれている。国は依然立っている。「民衆の敵」はまだ誰も逮捕されていない。
だが、こんなことは大したことではない。これによって、ホワイトハウスから毎日のように伝わってくる狂気、支離滅裂で奇妙奇天烈な話の数々が消えてなくなるわけではない。誰もがこの異様なホワイトハウスの現状をどう説明しようかと考えている。私の場合は、トランプ大統領は「オズの魔法使い」と考えることにした。
声が大きく、仰々しく、虚栄心が強い。要するに詐欺師だ。スクリーンの後ろには何もない。あるのは、ホワイトハウスを支配する制度的カオスと、絶え間なく気分が変わる心理的カオスだ。どうすればいいのか。カーテンの後ろにあるものは無視しよう。前面に見えるもの、つまり、政策、発表、行動を見て判断したい。
今のところ、一応、つじつまは合っている。ニール・ゴーサッチ最高裁判事、パイプライン「キーストーンXL」、北大西洋条約機構(NATO)の重要性の再確認、シリア攻撃、閣僚人事などだ。正常になってきていると言ってもいいくらいだ。
◇南北戦争めぐり迷走
これなら安心していられる。しかし、オズの魔法使いにも限界がある。カーテンの後ろから飛び出していて、どうしても見えてしまうものがある。エンターテインメントとしては面白いのだが、無視しても問題のない、他愛(たあい)のないばかさ加減の例をいちいち数える気はない。例えば、南北戦争はどうして避けられなかったのか、勃発の16年前に死亡していたアンドルー・ジャクソン大統領が南北戦争についてなぜ怒っていたのかといったトランプ氏の迷走などどうでもいいことだ。
確かに恥ずかしいことだが、実際に大統領の職務やこの国の進む方向に影響を及ぼすことではない。だが多少、異様ではある
異様な話はほかにもある。トランプ氏の4月下旬の韓国に関する発表だ。愉快な話ではなく、報道はかなり控えめだった。内容はこうだ。
トランプ氏は、核とミサイルをめぐって北朝鮮に圧力をかけるための世界的キャンペーンを進めている。韓半島近海にカール・ビンソン空母打撃群を派遣し、北朝鮮との「大きな、大きな紛争」の可能性が高まっている。一方、北朝鮮のミサイルを迎撃するための「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備が急ピッチで進められている。
韓国は今、激しい大統領選の真っ最中だ。親米だった大統領が弾劾されたばかりで、起訴され、裁判中だ。選挙戦は野党がリードしている。北に甘く、THAADの韓国配備には否定的なことから、米国にとっては懸念材料だ。
米国は、韓国が土地とインフラを提供し、米国が10億㌦の費用を負担することで合意していた。ところがトランプ氏は、事前の警告なしにこの合意を取り消し、韓国が負担すると話した。これによって反米感情が高まり、文在寅候補はこの問題を争点とした。
こちらが望んだことに対して、相手に支払えと言うこの大統領は何を考えているのだろう。何がしたいのだろう。4兆㌦の予算の中で10億㌦は四捨五入すれば消えてしまう誤差の範囲内だ。
◇韓国大統領選に影響
大統領のこの主張は自滅し、3日以内にマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)がそれを撤回し、合意を順守し、10億㌦を請求しないことを韓国に確約した。
影響は出た。文氏が恩恵を受けた。親米の政党は反発した。THAADの運命は危うくなった。文政権になった場合、北朝鮮に対して足並みをそろえられるかどうかも怪しい。
貿易交渉に関しては、THAADの配備に中国が反発し、韓国への経済的締め付けを行っている。その上、トランプ氏によって、米国と韓国との間に貿易をめぐる亀裂が生じた。
韓国の大失態で、トランプ氏をめぐる懸念はさらに強まった。外部からの要因で起きたこの危機で韓国に何が起きるのか。隠れるところも、ガードレールも、衝撃を和らげてくれるものもない。1人の男が自分だけの考えと理解で、世界が米国に投げ掛けた問題にどう対処するのか。トランプ大統領が今後、どれだけ正常化しようと、トランプ氏が関わると、その瞬間、すべてが無駄になる。
午前3時に緊急の電話が鳴ったらどうなるのだろう。
放っておけばいい。魔法使いは眠らせておいて、マティス国防長官に転送すべきだ。
(チャールズ・クラウトハマー、5月5日)






