トランプ政権、北朝鮮非核化へ「圧力と扉」

 核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対して圧力を強めているトランプ米政権が、先月末から非核化交渉に向けた対話のシグナルを送り始めている。米政府は「圧力をかけつつ、交渉の扉を開いておく」戦略だとしているが、トランプ外交は予測が困難なため、先が見通せない状況になっている。(ワシントン・岩城喜之)

直接対話は条件次第
非公式協議を開催、水面下で地ならしか

 トランプ大統領は1日、ブルームバーグ通信とのインタビューで、金正恩朝鮮労働党委員長との会談について「会うことが適切なら当然会う。そうなれば光栄だ」と語った。会談は条件次第だとしたが、1月の大統領就任後、初めて北朝鮮との直接対話の可能性に言及したことから、多くの注目が集まった。

トランプ氏

4月26日、上院議員をホワイトハウスに招集して北朝鮮政策を説明した後、大統領執務室に戻るトランプ氏(手前左)=UPI

 またトランプ氏は、4月30日に放送された米CBSテレビとのインタビューで、正恩氏について「若くして権力を掌握した。なかなかの切れ者だ」と述べるなど、批判一辺倒だったこれまでの発言を徐々に修正している。

 トランプ氏の一連の発言を受け、ホワイトハウスのスパイサー報道官は「今は明らかに(会談の)条件が整っていない。北朝鮮が挑発行動をやめることが前提だ」と釈明したが、北朝鮮が非核化の意思を示せば対話に応じるとのメッセージをトランプ氏が送ったとする見方も出ている。

 ジョゼフ・デトラニ元朝鮮半島和平担当大使は、米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)に対し「トランプ氏の発言が米朝の直接対話につながる可能性もある」と指摘。CNNテレビも「注目に値する内容だ」と報じた。

 こうした見方は、トランプ氏の発言を前後して政権幹部からも米朝対話の可能性に触れた発言が相次いでいることが影響している。

 4月26日には、ジェームズ・マティス国防長官とレックス・ティラーソン国務長官、ダン・コーツ国家情報長官が北朝鮮政策の見直し結果をまとめた共同声明を発表し、「韓半島の非核化に向けた交渉はオープンだ」と強調。ティラーソン氏は今月3日に国務省で行った演説でも、対話のための対話には応じないとしながら「適切な条件なら対話に応じる準備がある」と述べ、北朝鮮にシグナルを送った。

 一方、北朝鮮も米国への接触を模索し始めている。北朝鮮外務省で対米交渉を担当する崔善姫・北米局長らは8日、ノルウェーのオスロで元米高官や専門家らと会合を行った。会合では核問題や米朝協議の可能性のほか、今後の米国の出方を探ったとみられるが、一部の米メディアは「北朝鮮はこの会合を米国との公式対話につなげようと考えている」とする見方を伝えた。

 米国務省は「(会合は)米政府とは関係ない」としているが、今後も非公式な会合は複数回予定されており、水面下で米朝協議の地ならしが進む可能性もある。

 ただ、両国が直接交渉するためのハードルは高い。米国側は、韓半島の非核化と米本土を射程に入れる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を北朝鮮が放棄することが譲れない条件だが、北朝鮮は核開発を中止すれば体制存続が保証されないとの思いがあり、「米側が求める核放棄に応じる可能性は低い」(米メディア)とみられている。

 ただ、トランプ氏の外交政策は予測困難なことから、米朝が直接対話に向かう可能性もあると指摘する声も少なくなく、北朝鮮情勢は今後も予断を許さない状況が続きそうだ。