トランプ氏、外交政策を転換

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

復活した伝統的国際主義

 世界は、トランプ大統領による外交政策の急転換に沸いている。トランプ氏は「米国第一」を基本方針としている。世界の警察官としての役割を放棄した。米国に寄生する外国を非難した。つまり、米国の大切な体液を吸い取っているということだと思うのだが、それが同盟国だ。トランプ氏は4月4日、「世界の大統領にはなりたくない。私は米国の大統領だ。今後は米国第一で行く」と宣言した。

 1週間前、国務長官と国連大使が、アサド政権は現実に存在し、政権を変えることはもはや米国の優先事項ではないと話していた。

 今週に入って、アサド大統領が反政府勢力が支配する地域に化学兵器を投下すると、トランプ氏はシリアに59発の巡航ミサイル、トマホークを撃ち込んだ。

 これは、一部は、サリンで死んでいく子供たちの画像を見たことによる感情的な反応だ。同時に、オバマ前大統領がなし崩しにした化学兵器の使用をめぐるレッドライン(超えてはならない一線)を引き直す機会をつかんだということだ。

◇63時間後シリア爆撃

 トランプ氏は、モラルと戦略に基づいて行動し、外交政策全体を大きく転換した。

 確かに、アサド政権の中でも、政権そのものも変化はなく、この攻撃でシリア内戦の戦局が大きく変わることはない。アサド政権、ともに戦うイラン、ロシア、ヒズボラは依然、優勢だが、もはやこれまでのように自由には行動できない。米国は6年間、あまり行動せず、制約はなかったが、これからは米国がにらみを利かせる

 今回の攻撃は、シリア政権交代のための計画の始まりではない。しかし、シリア内戦とその結果に対して米国が関与していくことを改めて明らかにした。米国はこれからは黙って見ていることはない。

 反応が非常に早かったことも世界の注目を集めた。オバマ氏はもういない。細かな証拠集めや調査はなされない。破綻した国々のモラルをめぐるジレンマに苦悩した大統領はもういない。オバマ氏はアフガニスタンでの行動を決めるまでに10カ月かかった。トランプ氏が、アサド氏に化学兵器使用という悪事の代償を支払わせるまでは63時間だった。

 米国は迅速に、断固とした行動がとれることを示した。その上、米国第一の制約を大胆に乗り越え、不明確な国際的規範を守った。

 トランプ氏は就任演説で、70年前から世界の指導国として米国人が抱いてきたコンセンサスを拒否した。その後3カ月足らずで、シリア攻撃を行い、あっという間に、新たな干渉主義へとかじを切った。確かに、民主主義のための改革運動に資するものではないが、具体的な戦略目標の達成には資するものだ。米国の戦略は、広範囲に及び、米本土からはるか遠くにまで達する。

 例えば北太平洋だ。シリア攻撃は、中国と北朝鮮の両方にとって、核とミサイルをめぐって北朝鮮へ圧力をかけるトランプ氏が本気であることを伝えるメッセージとなった。これらの施設に対する先制攻撃は行われそうになかったが、今なら、ありそうな感じがする。飛行中の北朝鮮のミサイルを迎撃する可能性はさらに高い。

 ロシアへのメッセージも明確だ。シリアに、さらには欧州に、深く関わり過ぎるなというメッセージだ。戦いを求めているわけではないが、ルールも定められているわけではない。シリアはロシア軍とシャイラット空軍基地を共有している。ロシア軍の兵舎は攻撃を免れたが、それは、ロシアとの関係が近いからではない。

◇後退するバノン主義

 さらに大きな教訓がある。最終的には国益が勝るということだ。ポピュリストの孤立主義は、心地良く、大衆受けし、確かにそのおかげで選挙に勝った。しかし、米国の外交政策は、バノン大統領上級顧問の考えとは逆だ。

 バノン氏は確かに、米国第一の就任演説を書いた。しかし、シリア攻撃のシナリオを書き直したのは、マティス国防長官、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)が率いる伝統的国際主義外交チームのベテランらだ。

 アサド氏は、化学兵器で国際的なタブーを破った。米国がやらなければ、誰が法を執行するのかと聞かれ、トランプ大統領候補は、知ったことではないと答えた。大統領になるとトマホークを撃ち込んだ。

 トランプ氏の外交政策は、単なる国土防衛から、一定の利益、価値観、国外の戦略的資産の防衛へと広がった。これは、時間と共に変わるものではない。第2次世界大戦で国外で戦闘に参加して以降、継続してきた基本原則だ。

 英国のパーマストン子爵への謝罪について、米国は永遠に熱意を持っているわけではないが、永遠の国益は持っている。国益を主張する術(すべ)も知っている。バノン主義が後退するのはそのためだ。

 物事はそう簡単に変わるものではないと言いたいわけではない。百八十度の転換を目の当たりにしたばかりだ。予測できないことを美徳だと考えている大統領なのだから、再び方向転換することもあり得る。

 だが当面は、伝統主義がかじを握る。米国の政策は正常化された。世界はそれに気付いている。8年間の夢遊病は終わった。米国が帰ってきた。

(チャールズ・クラウトハマー、4月14日)