ふるさと納税の非教育的効果


 総務省が過熱する「ふるさと納税」返礼品の高額化競争に待ったを掛けた。1日付の通知で、返礼品価格が寄付額の3割を超える場合、「速やかに3割以下に」抑えるよう要請。また、換金性の高いプリペイドカードや商品券、資産性の高い家電や宝飾品など、制度の趣旨に反する返礼品も制止している。

 ふるさと納税は、自分の出身地に限らず、応援したい地方自治体(都道府県・市区町村)に寄付すると、2000円の自己負担を超える額が所得税と個人住民税から控除される制度で、15年度の寄付金総額は1653億円。控除の上限額が2倍になったこともあって、これは前年の4・3倍、制度ができた2008年度の20倍以上になった。

 自治体とすれば万々歳だろうが、その一方で、返礼品の費用は約680億円と寄付総額の4割に上る。もちろん、返礼品は寄付金を増やす“触媒”となり、地場産業のPR、寄付者の関心を地方に向ける効用も大きいが、本来の目的のために回る金額が4割も目減りしている現状はやはり問題ありというべきだ。

 この制度の出発点は、地方で生まれ、教育を受け、進学や就職を機会に都会に住むようになった国民が、自分を育んでくれた「ふるさと」に少しでも納税して恩返しできないかという問題提起だった。そういう意味でこれは絶妙のネーミングだ。しかし、実際の運営を見ると、返礼品リストを見比べながらどこに寄付す(ればより多く得す)るか選んでいる人が多い。この場合、「ふるさと納税(≒寄付)」は全く実体のない言葉になってしまう。

 ただでさえ都会で生まれ、親の転勤などで引っ越しが多く、従来の「ふるさと」を支えた近隣住民のコミュニティーとその周辺の大自然を体験したことのない若者が増える中で、欲望で歪曲(わいきょく)された「ふるさと」や「寄付」の文化がもたらす非教育的な効果の深刻さをもう一度考えるべきだろう。(武)