北の危機回避へ中国が関与

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

政権交代も選択肢に

 北朝鮮をめぐる危機は作り上げられたもののように見えるが、そうではない。

 北朝鮮は10年以上前から核兵器と弾道ミサイルを持っているのだから、どうして今、慌てなければならないのか。それは、北朝鮮が核保有国となることを目指してきたからだ。北朝鮮は、米国に到達できる大陸間弾道弾(ICBM)の開発を急いでいることを公言している。金正恩氏が、ボタン一つで米国の都市を破壊できるようにするためだ。

 これは単なる脅しではない。固体燃料ミサイルの開発で大きな進展があった。短時間で発射準備ができるようになり、隠しやすくなるため、発見し、破壊することが困難になる。

 同時に、核兵器の製造も着実に進めている。現在は10発から16発保有しているとみられ、2020年までに100発に達する可能性がある。英国が保有している核は約200発だ。

◇抑止力では不十分

 危機という理由はここにある。金正恩氏が米国の都市を完全に破壊できる能力を持つことを米国としてはとうてい容認できない。

 抑止力で対応できないかという議論がある。ロシアと中国をずっと阻止できてきたのだから、北朝鮮の攻撃も阻止できるのではないかということだ。だが、第一に、抑止力は、旧ソ連のような理屈の通る敵対国であっても、確実なものではない。その証拠に、1962年10月に核戦争の危機に直面した。

 第二に、北朝鮮に常識は通用しない。奇妙で、無謀で、先の読めない絶対的権力者が支配する孤立国家だ。カリギュラなど物の比ではない。残虐で、カルトのような体制であり、国民はロボットのように意のままに操られている。ジャーナリストのカレン・エリオット・ハウス氏はかつてこう指摘した。サダム・フセインのイラクは監獄だが、北朝鮮はアリの巣だ。

 アリの巣に、チェック・アンド・バランスはない。

 抑止できないなら、阻止するしかない。では、どうすればいいのか。最も理想的なのは、中国が影響力を行使し、北朝鮮に核開発を放棄させることだ。

 中国は以前から、そのような姿勢を示してきた。しかし、断固とした対応は取ってこなかった。それには幾つか理由がある。金正恩体制が崩壊した場合の大量の難民発生を恐れているのはもちろんだが、北朝鮮は米国にとって長年の苦痛の種であり、体制が崩壊すれば、韓国、さらには米国が中朝国境の鴨緑江まで支配を拡大することになるからだ。

 ならば中国はなぜ今回は、米国の指示に従っているのか。

 これもさまざまな理由がある。

 ――中国は、情勢の緊迫は気にしていないが、戦争は望んでいない。戦争のリスクは高まっている。ICBMの脅威は米国にはまったく受け入れられないことも知っている。現米政権が、宣告されていないレッドライン(越えてはならない一線)を北朝鮮が越えた場合、断固たる対応を取るであろうことも分かっている。

 ――中国の国益は、北朝鮮の核に対抗するためのミサイル防衛の設置で大きく損なわれた。韓国は最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備を進めている。日本もこれに続く可能性がある。THAADの目的は、北朝鮮から飛来するミサイルを追跡、迎撃することだ。他のミサイル防衛と同様、中国の核兵器の戦力が損なわれるとは限らない。

 ――中国が何もしないと、米国が1991年に韓国から撤収させた戦術核を再配備する危険性が出てくる。

 ――危機が深まれば、その可能性は高まり、特に重要なのは、日本が核を保有する可能性が高まることだ。日本の核武装は中国にとっては最悪の悪夢だ。

 これらは米国が持つ主要な切り札だ。目的ははっきりさせなければならない。最低でも核実験の凍結だ。最大のものは、政権交代だ。

◇フィンランド化も

 中国は現在の北朝鮮政権と強い利害関係を持っているため、南北の統一を放棄することを明確にすれば、政権交代を受け入れやすくなるだろう。共産主義国家が西側に吸収されたドイツの場合とは違う。独立国でありながら、フィンランド化された北朝鮮なら、受け入れられるだろう。

 冷戦時、フィンランドは独立国家だったが、外交では常にロシアの影響下にあった。新たな北朝鮮は独立国家だが、常に親中とするよう約束すればいいだろう。新政権が、敵対的な同盟には加わらないとすることもあり得よう。

 交渉が必要だが、それらは米国の強い関与によって裏打ちされなければならない。北朝鮮の核施設やミサイル施設への先制攻撃は危険過ぎる。韓国への北朝鮮の侵攻を引き起こし、膨大な数の死者が出ることになるのはほぼ間違いない。しかし、飛行中の北朝鮮のミサイルを迎撃し、米国の自衛の能力と、北朝鮮のミサイルの無力さを示すことはあり得る。

 北朝鮮をめぐる危機は、現実であり、強まっている。しかし、対処する方法がないわけではない。選択肢はある。手段もそろっている。今がそれを実行すべき時だ。

(チャールズ・クラウトハマー、4月21日)