失速するポピュリズム
欧州の選挙で次々後退
これまで、ポピュリストが反旗を翻して西側を席巻し、体制を根底から揺さぶっていると言われてきた。欧州連合(EU)でも、西側諸国の同盟でもそうであり、自由民主主義そのものが脅威にさらされている。
しかし、フランス大統領選の第1回投票が終わった今、ポピュリストの波は最高潮に達したものの、すぐに弱まるという見方が支配的だ。
しかし、どちらの見方も間違っている可能性がある。反イスタブリッシュメント(既成勢力)感情から、英国はEU離脱(ブレグジット)を決め、米国ではトランプ政権が誕生し、マリーヌ・ルペン氏が仏大統領に押し上げられようとしていたが、それもここまでだ。ルペン氏は第2回投票で敗北する可能性がある。だが、中道派の有力候補エマニュエル・マクロン氏が勝ったとしても、イスタブリッシュメントの勝利とも言えない。
マクロン氏は、共産主義者ジャンリュック・メランション氏、「血と土」の民族主義者ルペン氏、縁故主義と汚職が批判され振るわなかった中道右派候補者を僅差で下した。与党・社会党候補は、5位と振るわず、得票率はわずか6%と惨敗した。
一方、ブレグジット、トランプ大統領就任の後、ポピュリストらに逆風が吹いている。オランダ下院選ではヘルト・ウィルダース氏率いる民族主義政党が失速、権力から遠のいた。オーストリアでも、民族主義勢力が後退、ドイツで行われる選挙では、右派民族主義政党はほぼ10%と低迷している。
◇変節したトランプ氏
振り返れば、ポピュリストをめぐる騒ぎは誇張されていた可能性がある。ブレグジットについていえば、その影響は過大に評価されていた。離脱決定が予想外だったために、波紋を呼んだ。英国の欧州との関係は歴史的に微妙だった。それはヘンリー8世とローマからの分離にまでさかのぼる。この500年の間、英国は自国を欧州の一部というよりも、対岸の島国とみてきた。
歴史から見れば、英国が、主権をウェストミンスターからブリュッセルに移したこと自体が特異なことだった。ブレグジットはむしろ本来の欧州への回帰であり、それが正常な姿なのだ。
トランプ大統領の勝利というポピュリストの勝利も、見掛け倒しだったことが明らかになってきた。たしかにポピュリストとして出馬し、ポピュリストとして勝利したにもかかわらず、わずか100日で、伝統主義者となった。
オバマケア見直し案は、伝統的な小さな政府を目指すものだ。税制改革は1986年のレーガン大統領のまねだ。トランプ氏が指名した最高裁判事は、典型的な立憲主義的保守派であり、中立とは言えない。注目されている大統領令は、規制改革やパイプライン「キーストンXL」「ダコタアクセス」など、企業重視の伝統的保守主義が望んでいるものだ。
◇欧州統合推進に反旗
私は、これらの政策をすべて支持するが、これらは既成勢力に反対するポピュリストの政策ではない。通商政策は例外だ。しかし、今のところ急場しのぎであり、特異だ。トランプ氏は、メキシコ、中国を狡猾(こうかつ)と批判し、圧力をかけ、今度はカナダに脅しをかけている。しかし、本気で北米自由貿易協定(NAFTA)から離脱したいのか、再交渉への策略なのかはまだはっきりしない。
カナダとの軟木材をめぐる対立は今に始まったことではない。35年も前にさかのぼる。介入した政権はすべて、さまざまな会合で貿易条件に抗議してきた。主要貿易相手国カナダと本格的な貿易戦争を起こせば、新たな境地を開くことになろうが、今のところそこまでには至らない交渉術にとどまっている。
このような状態が定着することは、ポピュリストの反乱は思われていたほどのものではなかったということだ。しかし、重要なのは欧州だ。重要度がはるかに高い。国民国家の未来そのものが懸かっているからだ。何世紀にもわたった守られてきた主権が、拡大する超国家の中で失われようとしている。これは、地域社会の民族構成、雑貨屋で使われる通貨まで、日常生活のすべてに影響を及ぼす。
フランス大統領選で、これ見よがしに親欧州を訴え、選対本部にEU旗を掲げるマクロン氏が優勢であることは、フランスにこの偉大な実験を放棄する意思がないことを示している。しかし、欧州主義エリートらは、これがいつまでも続くと考えない方がいい。ポピュリストの反乱は、欧州主義者らの無謀な、反民主主義的な統合推進への反旗だ。今すべきことは、欧州の経済的停滞と社会的疎外の原因に対処することであり、今のような不安定な状態を招いたこれまでの政策をやみくもに追求することではない。
ポピュリストの脅威によって、既存の権力者らが目を覚まし、尊大な自己満足に気付くようになれば、反乱は成功と見るべきだ。しかし、間違ってはいけない。フランス大統領選で、現状維持派は敗北した。これは一時的なものだ。当面、ポピュリストのうねりがやむことはない。
(チャールズ・クラウトハマー、4月28日)






