中国サイバー戦力、最大の脅威

「情報戦争」時代と米国(上)

安保専門コラムニスト ビル・ガーツ氏に聞く

 2016年米大統領選を狙ったロシアのハッキングや、中国によるサイバースパイ活動など、米国をめぐるサイバー空間での争いが激しくなっている。新著『iWar―情報化時代の戦争と平和』で、今後はサイバー戦を中心とした「情報戦争」が活発になると指摘する安全保障専門コラムニストのビル・ガーツ氏に、情報化時代の新たな戦争について聞いた。(聞き手=ワシントン・岩城喜之)

壊滅的打撃与える可能性も

あなたは、21世紀は武器や兵器をほとんど使わない「情報戦争」の時代になると主張している。情報戦争とは具体的にどのような戦争か。

ビル・ガーツ

 ビル・ガーツ氏 米紙ワシントン・タイムズ(WT)の国防担当記者として、これまでにスクープ記事を多数執筆。現在は米保守系ニュースサイト、ワシントン・フリー・ビーコンの上級エディター。WT安保専門コラムニスト。著書に『iWar―情報化時代の戦争と平和』『ビトレイヤル(裏切り)』(邦訳『誰がテポドン開発を許したか―クリントンのもう一つの“失敗”』文藝春秋社刊)など。

 情報戦争は基本的に二つのカテゴリーに分けられる。一つはサイバースパイ活動や、サイバー戦争に向けて敵のシステムを混乱させるための準備をする活動だ。もう一つは、インテリジェンスの目的で情報を窃取するのではなく、ロシアが米大統領選で行ったように、入手した情報をばらまいて世論に影響を与えるなど政治的な効果を生み出す戦いだ。

米国は外国からどのような情報戦争を仕掛けられているのか。

 ロシアからは、いま述べた大統領選に影響を与えたような攻撃を受けている。これはサイバー侵入によって行われる新しい形の低烈度戦争といえる。

 中国に関しては、サイバースパイ活動と攻撃の準備を組み合わせたものが見られる。例えば、中国は米国の電力供給網の制御システムに侵入しているが、これはソフトウエアをひそかに組み込んでいると考えられる。ひとたび米中間で危機や紛争が起これば、そのソフトウエアを使って電力供給網を遮断し、米国に壊滅的な被害を与えることが可能だ。

オバマ政権は情報戦争への対策をあまり取らなかったのか。

 オバマ前大統領は、世界の問題の大部分が米国によって引き起こされているとするリベラル左派の視点、政治的見解を持っていた。はっきりとは気付かれていなかったが、オバマ氏は米国に対して偏見を持っていた。彼は情報戦争への対策をほとんど取らなかったが、それは間違いだった。行動を起こさないことで被害を拡大させてしまった。

中国の情報戦争能力をどう評価するか。

 中国はおそらくロシアに次ぐ実力を持っている。彼らのサイバー戦能力は非常に強く、洗練されている。米政府は中国を最大の脅威の一つと見なしている。その理由は、中国が米国に壊滅的なダメージを与える能力を有しているからだ。

中国人民解放軍は2015年末にサイバー戦能力を持つ戦略支援部隊を創設した。この狙いは何か。

 戦略支援部隊は人民解放軍の陸海空軍、ロケット軍と同等の新しい部隊で、サイバー攻撃や宇宙における活動、電子戦を支援する極めて重要な部隊だ。ただ、詳細は分かっていない。まだ秘密の組織といえる。

あなたは情報戦争を利用した中国の民主主義改革プロジェクトを訴えているが。

 中国はいまも核武装した共産主義独裁体制のままだ。その体制を脅威の少ない民主主義体制に転換させることが、より平和な世界をもたらすカギとなる。だが、西側社会では、このことがあまり理解されていない。

 民主主義改革プロジェクトとしては、欧米や日本に対して(中国やロシアが)行っている世論に影響を及ぼす情報戦争を、そのまま中国に対して行い、中国の人々に影響を与える方法などが挙げられる。