日露会談への懸念
ロシアのプーチン大統領が12月に日本を訪問する。日本政府の一部には、北方領土問題に進展があるのではという甘い観測もあるようだ。
北方領土交渉では、日本はロシア(旧ソ連時代も含む)に煮え湯を飲まされ続けてきた。そもそも昭和20(1945)年9月2日、スターリンはソ連国民に対して「40年間の怨念(日露戦争での敗北)を晴らすときをじっと待っていた」という戦勝演説を行い、南樺太、千島列島(北方四島も含む)の軍事占領を正当化した。
現在、ロシアにとって、北方4島、そのなかでも国後島と択捉島は、オホーツク海を内海化し、他国の侵入や干渉を完全に排除できる地政学的に重要な地域となっている。
千島列島の海域は、全般的に水深が浅いため、潜水艦を含む艦船の航行は制約を受けるが、国後島と択捉島の間にある国後水道だけは、幅約22キロメートル、水深が最大約500メートルもあり、オホーツク海から太平洋へ自由に進出する出入り口となっているからだ。
択捉島は千島列島で最大の島であり、かつて真珠湾攻撃に向かう日本海軍の連合艦隊が停泊した単冠湾という大きな港湾もある。大型飛行場の建設が可能な平地も確保できる。新しい住宅建設やインフラの整備もロシア政府の手によって進められている。
このような状況のなかで、ロシアが地政学的・軍事的にも重要な北方4島を日本にそうやすやすと返すとは思えない。
駐ルーマニア大使館初代防衛駐在官(元1等陸佐)の乾一宇氏は、著書『力の信奉者ロシア その思想と戦略』(JCA出版)のなかで、「ロシア人にとって安全という心安らかな状態は存在せず、唯一の安全は、領土を膨張させる以外にはない」と述べている。乾氏の言う通りならば、北方4島は絶対に日本に戻ってこないだろう。
経済協力(支援)だけでは、北方領土交渉が進展しないことは、今までの歴史からも明らかである。今回の安倍・プーチン会談で、同じことが繰り返されないことを願うばかりだ。
(濱口和久)