新鮮味欠く『自衛隊「別班」』

 講談社現代新書から石井暁共同通信社編集委員が『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』を出版した。

 本書は話題の一冊として、各方面で紹介されている。

 石井氏が5年にわたって50人近い現職・元自衛官に取材し、共同通信社が加盟新聞社に「別班」の記事を配信するまでの経過が綴(つづ)られている。本書に登場する元自衛官の中には、以前、親しくお付き合いをしていた方も含まれていたので、一気に最後まで読んだ。

 「はじめに」のページで、石井氏は「『別班』が冷戦時代から現在に至るまで海外に拠点を設け、身分を偽装して自衛官に情報活動をさせてきたことを、安倍は知らされているのか。そして何より、自衛隊最高指揮官の文民政治家として、戦時中の軍部暴走の反省から導入された文民統制の重さを理解しているのか。『別班』の活動を、民主主義国家の大原則である文民統制を逸脱した行為である」と述べている。

 本書は最初から最後まで「文民統制を逸脱した行為」という言葉が繰り返され、「別班」の活動を問題視する論調となっている。

 石井氏は特定秘密保護法についてたびたび触れているが、同法の成立によって、「別班のような『不都合な存在』は歴史的経緯を含め、永久に闇に葬られる懸念がある」としている。スパイ防止法にも批判的だ。安倍首相が推し進める自衛隊を憲法に明記する憲法改正にも批判している。

 本書は、取材に基づいて書かれているとは思うが、石井氏の思い込みや願望も含まれているような気がしてならない。さらに言えば、読み進める中で、自衛隊を取材する立場として、上から目線で自衛隊と向き合っているような態度が行間から感じられた。

 石井氏が本書を書く前から、複数の元自衛官が書いた陸自情報部隊についての書籍も読んでいたせいか、本書の内容に新鮮さは感じなかった。ただし、物語として書かれたと思って読めば、安っぽいスパイ小説よりも面白いかも…。

(濱口和久)