マスコミOBと元首相

 現在、参議院で審議中の安全保障関連法案(以下・安保法案)をめぐり、法案に反対する「歴代首相に安倍首相への提言を要請するマスコミOBの会」(51人)が先月、中曽根康弘氏以降の存命の元首相12人に「安倍首相への提言」をお願いする要請文を送付し、回答があった5人の元首相の提言を発表した。

 回答をしたのは野田佳彦氏を除く自民以外から出た細川護熙氏、羽田孜氏、村山富市氏、鳩山由紀夫氏、菅直人氏の5人。

 全国紙の中で、最も大きく提言内容を取り上げたのが朝日新聞(8月12日付)だ。それによると、元首相の提言は次の通りとなる。

 細川氏は「立憲主義に対する畏敬の念の欠如を物語っている」。村山氏は「力で押し通す国民軽視の姿勢は許せない」。菅氏は「国民の将来よりも祖父の思いを優先する政治姿勢」。鳩山氏は「私は日本を『戦争のできない珍しい国』にするべきと思う」。羽田氏については、健康上の問題から関係者による口述筆記としたうえで「9条は二度と過ちを繰り返さないという国際社会への約束」とした。

 鳩山氏は過去に「国益も大事だが、地球益も大変大事だ」「日本列島は日本人だけの所有物ではない」などと発言して失笑を買ったことがある。今回の提言も、首相経験者の発言かと首を傾(かし)げざるを得ないような代物だ。

 5人の元首相に共通しているのは、いまだに戦後の一国平和主義から脱却できていないということだ。

 菅氏以外はすでに政界を引退しているが、一国のリーダーを経験した人物にふさわしい発言をお願いしたいものだ。

 とはいえ、歴代首相の出身政党や日頃の政治信条をみれば、今この時に安倍首相に「提言」しようなどと乗ってくる顔ぶれはおのずから明らかだ。提言内容もまた然(しか)り。

 そのことを一番ご存じなのが仕掛け人の「マスコミOBの会」の面々であり、大々的に報じた朝日ではないだろうか。本当に言いたいことがあるのなら、“虎”の威を借るようなことはせずに、自分たちの責任ある言葉で語るのが筋だろう。

(濱口和久)