中国の膨張主義と辺彊

 今月16日、中国を訪問したケリー米国務長官は、中国の王毅外相に対し、南沙諸島での中国による埋め立て拡大に懸念を表明。これに対し、王外相は「中国の主権、領土保全の維持に向けた決意は揺るぎない」とし一歩も譲らない態度を示した。

 中国にはそもそも「国境線」という言葉は存在しない。中国語で「国境線」に該当する言葉は「辺彊」だ。正確に言うと曖昧な地域を示す「緩衝地帯」に近い。

 中国は、歴史的に「力の空白」が発生した場合、他民族はその空白を埋めようと侵略してくる。「辺彊」が他民族の手に落ちれば、「緩衝地帯」がなくなる。漢民族にとって、「緩衝地帯」をつくることが、国家存続の前提であった。

 昭和20(1945)年8月15日の日本の敗戦後、毛沢東は国共内戦に勝利すると、国民党を台湾に追放し、中国(中華人民共和国)を建国した。

 このときの中国の「辺彊」は<満洲・内モンゴル・チベット・新疆ウィグル>の地域であった。「辺彊」経営を積極的に進めた結果、これらの地域は、現在、中国の膨張主義を支える戦略的拠点として位置づけられるまでになった。

 「辺彊」は陸上にだけ存在するのではない。海上にも「辺彊」は存在する。黄海、東シナ海、そして南シナ海だ。

 現在の中国の海上での領土膨張主義は、1987年に中国三略管理科学研究院・徐光裕高級顧問が論文で発表した「戦略的辺彊」という新たな概念を理論化したものだともいわれている。

 通常の地理的境界は、国際的に承認された国境で囲まれた範囲を、自国の領域としているが、中国の「戦略的辺彊」とは、通常の領域概念とは異なり、「総合的国力の増減で伸縮する」と規定しているところが他の国と違うところだ。

 これは中国の領域が、膨張と縮小の歴史を繰り返してきたことから生まれた考え方だが、中国の南シナ海での横暴ぶりに歯止めをかけなければ、次は東シナ海が同じ運命になるということを、日本人は真剣に意識するべきである。(濱口和久)