人質救出と情報力
イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」による日本人人質事件では、2人(後藤健二氏、湯川遥菜氏)が犠牲となった。
この事件を受けて、「海外で邦人が危険な状態(人質事件など)に陥ったときに、陸上自衛隊の特殊作戦群や第1空挺団、海上自衛隊の特別警備隊を出動させるべきだ」と解説する軍事ジャーナリストや、「自衛隊が人質を救出できるように法改正するべきだ」と委員会で質問した国会議員がいた。人質救出の難しさを無視した暴論だと言える。
確かに、自衛隊の部隊の中で、特殊作戦群や第1空挺団、特別警備隊が極めて高い能力を持っていることは、筆者も認めるところだ。
しかし、作戦遂行のためには、まずは情報が必要であり、今回の人質事件でも、日本政府はイスラム国について、十分に情報を得ることができていなかった。情報もなく、単に「人質を救出せよ」という任務を与えられたとしても、部隊は能力を発揮できない。情報がいかに重要かは、戦史が証明している。
また、日頃から現地の情報を得るため、防衛駐在官を増員する議論が起きているが、諸外国の武官と同じような権限と任務が認められていない日本の防衛駐在官では、増員しても税金の無駄になるだけだ。
米国は昨年、イスラム国に拘束された2人のジャーナリストを救出するため、米軍精鋭の特殊部隊「デルタフォース」を出動させた。米軍はイスラム国の通信傍受やハッキングを行い、現地に特殊工作員も潜入させていた。それでも2人の居場所を突き止められず、救出は失敗に終わった。
このことからも人質救出作戦は、極めて困難な任務なのである。
自衛隊は近年、国際貢献や国内での災害派遣に出動し、高い評価を受けてきたが、自衛隊はスーパーマンではない。
自衛隊が海外で邦人救出をするためには、今後は対外情報機関の創設や工作員の育成も必要となってくるだろう。今回のような人質事件には、自衛隊単独では対応できないことを、国民も知っておくべきである。
(濱口和久)