漆が持つ文化的粘質


地球だより

 チャイナは磁器。ジャパンというと漆器だが、何も日本独自の工芸ではない。

 漆文化は台湾やタイ、ミャンマーでも見られる。

 とりわけ近代化の波に洗われないまま、古来のままの漆文化が現存するのがミャンマーだ。

 マンダレーの漆工房を見学した折、釈迦の誕生から涅槃(ねはん)に至るまでの仏教にまつわる多様で繊細な文様を、漆職人が下書きなしで彫り込んでいたのを思い起こす。

 ここでは、第2次大戦後、戦後賠償の一環として日本の漆器職人が伝えたとされる技法が残っている。変わり塗りという技法がそれだ。

 この技法は重ね塗りした赤や緑の漆器の表面を削って、黒い下地を浮かび上がらせる。そうすることで、重層文様が自然に浮かび上がり、日本的な作品となる。

 ただ軍政下にあった一時、日本とミャンマーの漆交流が途絶えた時期があった。

 この間、経済制裁で欧米への輸出はほぼ閉じられ、ミャンマーを訪問する外国人観光客も激減。ミャンマーの漆産業は衰退の一途をたどった経緯がある。

 そうした中、日本の漆工芸作家たちが10年前から毎年、ミャンマーを訪問、新たなデザインや技法を伝え続けている。近年は、この場にカンボジアやタイの漆職人も駆け付けて来るようになった。漆はモンスーンの湿った風に育まれたアジア独自の工芸品だ。その漆は粘り気が命だが、アジアの国々を結び付ける文化的接着剤の役割も担っている。

(T)