伸縮する中国「辺彊」

 中国・北京で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の期間中、米中首脳会談が行われた。会談後の共同記者会見で、習近平国家主席は「太平洋は十分広いので、米中が共に発展することができる」と述べた。

 習国家主席の発言と同じ内容の発言は、中国国内では以前からあった。

 2008年3月、米国上院軍事委員会の公聴会で、太平洋軍司令官キーティング海軍大将が、2007年5月に中国を訪問した際、中国海軍幹部から、ハワイを基点として、米中が太平洋の東西を「分割管理」する構想を提案されていたことを明らかにしている。

 同司令官によると、この中国海軍幹部は「中国が航空母艦を保有した場合」として、ハワイ以東を米国が、ハワイ以西を中国が管理することで、「合意を図れないか」と打診したという。

 後にジャーリストの櫻井よしこ氏が、この中国海軍幹部は、楊毅元少将であることを明らかにしている(『WiLL』2012年1月号)。

 現在の中国の領土膨張主義は、1987年に中国三略管理科学研究院の徐光裕高級顧問が論文で発表した「戦略的辺彊」という新たな概念を理論化したものであるといわれている。

 通常の地理的境界は国際的に承認された国境で囲まれた範囲を、自国の領域(領土・領海・領空)としている。中国の「戦略的辺彊」とは、通常の領域概念とは異なり、「総合的国力の増減で伸縮する」と規定している。

 これは中国の領域が、常に膨張と縮小の歴史を繰り返してきたことから生まれた考え方だ。中央政府(中国共産党)が強ければ「戦略的辺彊」の拡大とともに地理的国境は拡大する。逆に弱くなれば、縮小するということを意味している。

 習近平体制は、「戦略的辺彊」という新たな概念の下、南シナ海ではフィリピンやベトナムと対立し、東シナ海では日本と対立している。

 日本が中国の領土膨張主義に対抗するには、まずは中国に対して妥協する姿(弱腰の姿勢)を見せないことが重要なのである。

(濱口和久)