城郭を見る目と政治
日本人は男女・年齢を問わず、城好きな人が多い。そのため、日本の城郭について書かれた書籍が数多く出版されている。
大東亜戦争までは、軍事学の1つとして築城学があり、日本の城郭についての軍事的な視点からの考察・研究が行われてきた。
しかし現在は、その伝統も途絶え、軍事的知識を持たない歴史家・建築家によって考察・研究がなされているケースが多い。
本来、地形・地勢や鉄砲・大砲などの武器の進歩が、城郭の形態にどのような影響を与えたかなどを含め、城郭がいかに軍事的必然性にも基づいて築かれ、それをめぐる戦いにどのような人間の知恵がしぼられていたかを知ることは、現在の軍事や政治を考えるうえでも役立つ素材だ。
築城の名手と謳(うた)われた加藤清正や藤堂高虎は、多くの城の築城に関わり、自身が居城とした熊本城や宇和島城などには、さまざまな軍事上の知恵が施されていた。今年のNHK大河ドラマの主人公である黒田官兵衛が築いた福岡城も同様だ。
この3人に限らず、当時の武将たちは、戦略・戦術を持って、多くの城を築いている。
加えて、武将たちは、現在の政治家よりもはるかに覚悟と勇気を持った人間が多かった。
政治家は選挙(戦)に負けるとただの人になるだけだが、武将は戦に負ければ命を落とすこともあった。まさに生きるか死ぬかの人生だったのである。
日本では、「外交と安全保障は票にならない」と長く言われてきた。それは基本的には変わっていない。
だから政治家の中で、真面目に日本の安全保障を考える人間は少ないのである。
武将のほうが政治家よりもはるかに安全保障に対する認識が高かったことは、歴史が証明している通りだ。
日本の城郭を軍事的な視点で見る能力は、軍事を任務とする自衛官だけでなく、現在の政治家にこそ、必要な資質だと私は思う。(濱口和久)