「山の日」制定に想う


 このところ、汚染水や領海侵犯など、日本の海では嫌なことが多い。対照的に山の方は、明るい話題が続いている。富士山が世界文化遺産に指定されるなど、いまや空前の登山ブーム。そして8月11日「山の日」の制定となった。

 「山の日」を制定しようという提案は、昭和36年「夏の立山大集会」が最初という。53年越しの祝日化の実現に、当時を知る山岳ファンには感慨深いものがあろう。

 ただ、なぜお盆前の11日なのか。夏山シーズンでお盆と重なり休みが取りやすいこと、授業日数の削減につながらないことなどから、この日に落ち着いたという。

 山好きの一人としては、混雑するお盆と重なる日は避けてほしかったというのが本音だ。とはいえ、日本山岳会や自然保護団体等の山を愛する人々による、忍耐強い運動の賜物(たまもの)と感謝したい。

 山登りはよく人生に喩(たと)えられる。登山家の生き方から学ぶことは多い。

 80歳世界最高齢エベレスト登頂を果たした三浦雄一郎さんは65歳の時、メタボと糖尿病と狭心症で、医者からあと3年と宣告された。強靭(きょうじん)な精神力で70、75、80歳と奇跡の偉業を成し遂げた。何歳になっても挑戦し続けること、夢を持ち続けることの大切さを教えられた。

 また女性世界初のエベレスト登頂を果たした田部井淳子さん。東日本大震災の翌年、72歳で余命3カ月のがん宣告。身辺整理をする時間がもったいないと、闘病中も山に登り続け、みごとにがんを克服した。

 自伝『それでも わたしは山に登る』には、人智を超えた力、山を通して人生の大切な知恵を教えられたと感謝の思いを綴(つづ)っている。

 神々しい山々と向き合うと、人間は謙虚さを取り戻し、感謝の思いになれる。今年の山は賑(にぎ)やかになりそうだが、自分を見つめる山行きにしたい。(光)