【韓国紙】不安な次期大統領候補の安保識見
韓米同盟の離間謀る北
韓半島情勢が揺れ動いている。北朝鮮は休む間もなくミサイルを試射し、韓米同盟を離間させる策略を使っている。9月の1カ月間に長距離巡航ミサイル、列車から発射する弾道ミサイル、極超音速ミサイル“火星8型”、新型地対空ミサイルを相次いで試験発射する一方で、寧辺核施設で再稼働の兆候まで露呈した。
金正恩総書記が最高人民会議の施政演説で表明した通り、新しい兵器体系の開発に拍車をかけているのだ。北朝鮮は昨日、金氏が演説で表明した通り、南北通信連絡線を復元したが、“先決すべき重大課題”の解決を宿題として掲げた。
ただ、米国は北朝鮮が先に対話に応じてこそ、制裁緩和、終戦宣言などあらゆる議題を論議できるとの立場だ。北朝鮮の韓米同盟分断戦術の狙い目はそこにある。通信連絡線復元を契機に南北対話が再開されれば、韓米間の不協和音はより一層大きくなるだろう。
米中の新冷戦で韓半島周辺情勢もイバラの道が予想される。米国は中国を牽制(けんせい)するために同盟国・友好国に味方につくことを公開で要求している。
先月、英国・オーストラリアとともに、中国を念頭においた安保協力体「AUKUS」を発足させ、オーストラリアに原子力潜水艦技術を提供することにしたのが代表的な事例だ。韓国政府が独自の声を出せば、外交孤立状態に陥るのではという懸念も出ている。
こうした厳しい状況で韓国は来年3月に大統領選挙を控えている。与野党の有力大統領候補の面々を見れば、外交安保分野の専門識見を持った人がいるのか疑問だ。
野党「国民の力」の大統領候補TV討論会で洪準杓(ホンジュンピョ)候補が、「作戦計画5015が発動されれば、大統領は一番最初に何をしなければならないか」と質すと、すぐに尹錫悅(ユンソンニョル)候補が、「韓米連合作戦をしなければならないので、米国大統領とまず通話する」と答えた。
質問も返答も不適切だった。与党の候補たちも大差はない。これでは次期政府が外交安保懸案をまともに遂行できるのか、とても信頼できない。大統領候補に韓半島情勢に関する洞察力までは期待しないが、基本的な識見すら持っていないとすれば、韓国の安保はどうなるだろうか。
現時点で大統領候補が北朝鮮の核問題、韓米同盟の未来と米中対立への対処などに対する見解や立場を具体的に明らかにして、有権者の不安感を払拭(ふっしょく)しなければならない。
「君子は周して比せず小人は比して周せず」(君子は広く公平に人と親しむが、小人は特定の仲間とだけ親しみがち=論語為政篇)。大統領候補が今でも再確認すべき言葉である。ネガティブ戦略で有権者の票を集めることだけが能ではない。
(朴完奎(パクワンギュ)論説委員、10月5日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。
【ポイント解説】
「まともな候補」がいない危機
韓国では政権交代を求める声と政権維持を望む声が拮抗している。野党は文在寅(ムンジェイン)政権を忌む国民の声を背にして、政権奪還を狙うが、これはという有力候補に恵まれていない。それが露呈したのが野党候補同士のTV討論会だ。
名目上「休戦状態」にある韓国で、安全保障は何にもまして優先されるべき課題だが、「作戦計画5015」を問われて、尹錫悦候補は「まず米国に連絡して」と子供のような答えを出し、そもそも「極秘」扱いの微妙な同作戦を質問した洪準杓候補の見識も疑われる。
同作戦は、敵地先制攻撃、斬首作戦などすべてを統合した対北作戦である。ネットを見れば情報はいくらでもあり、既に「極秘」でも何でもないが、大統領がどういう手順で行動するかなど詳細な核心内容までは漏れていない(はずだ)。野党候補たちのお粗末さ加減に他人ごとながら心配になる。
大統領選が近づくと「北風」が吹くのも韓国の特徴。その多くが北朝鮮が干渉してくるというよりも、北風を利用したい韓国側の勢力がシナリオを書いたものだという。北に武力挑発をさせ、南で安保意識を高めて保守勢力に有利な状況をつくる。南の保守と北朝鮮、元来は対立する勢力だが、両者は水面下でこうしたやりとりをすることがある。
映画「工作黒金星」(邦題:「工作」黒金星と呼ばれた男)では、そうした工作が初めて描かれた。1997年末の金大中(キムデジュン)氏が当選した大統領選挙で、進歩系の金氏に不利な状況をつくろうと、保守勢力が北に武力挑発を頼むシーンだ。
今回、北朝鮮は何発ものミサイル発射を行って安保危機を煽(あお)っておきながら、南北連絡通信線の復活には応じ、その一方で、文大統領の「終戦宣言」提案には冷水を浴びせるといった対応をしている。当事者にしか分からないやりとりだ。
今後、米国は韓国に旗幟を鮮明にするよう求めてくる。その時、韓国の新政権は新大統領はどうこたえるのだろうか。選挙で韓国民が最良の選択をしてくれることを見守るしかない。
(岩崎 哲)