尖閣、人権… もっと中国を刺激しよう
対中関係は、「できるだけ刺激しない」から「しっかり刺激する」外交へ転ずるべき時だろう。
第一に尖閣問題だ。菅首相も「日米同盟が基軸」だと強調する。米大統領選で勝利宣言したバイデン氏との初の電話会談で「尖閣は日米安保条約の米国の防衛義務の範囲内」の言質を得たといい、一安心ムードが漂った。だが大事なのは日本自身の対応だ。ある米人評論家は「日本側が『基軸』と復唱する度、それだけかと落胆する」と言った。
中国は先ごろ国防法改正案や海警法案を公表した。「中国の主権と経済権益が脅かされたら、武器使用などあらゆる措置をとる」権限を海警局に認めるという。海警には1万㌧の大巡視船や76㍉大型砲も配備された。先週、中国公船による尖閣周辺海域内での活動が年間300日以上という新記録を樹立した。日本漁船の追尾も始めている。
中国の新攻勢に対し、地元の中山義隆・石垣市長や安全保障専門家から「実効支配の強化が緊要だ。人を上陸させ、常駐させること。自然環境調査、灯台整備、気象観測所設置などから着手すべきだ」という声が強く上がっている。それに対し「中国側の倍返しの反撃」を懸念する慎重論も多いが、私は前者に賛成したい。
20年前、故岡崎久彦氏、伊藤憲一氏ら安保専門家グループと、自衛隊機で尖閣上空を飛んで見た光景が目に焼き付いている。1978年に政治団体が設置したミニ無人灯台の日の丸が、何とも心細げだった。灯台はその後海上保安庁の所管になったが、実効支配と言うには寂し過ぎる。
政府は自然環境調査を年内にも実施するが、あくまで上陸はしないという。上陸もできない領土とは何だろう。調査のための一時上陸から始めるべきではないか。放って置けば中国が先に漁民や民兵などを上陸させそうだ(漁船団も増強され、他国の経済水域を荒らし続けている)。
第二は人権や自由や少数民族の抑圧問題だ。日本政府の反応はほぼ「事態を注視」だった。6月の香港への国家安全維持法導入決定以後、「遺憾」、「重大な懸念」へと少し表現はアップしたがまだ米欧より弱い。習近平国家主席の国賓招待中止をはじめ、抑圧反対、被抑圧者支援の立場を一層明確に、具体的に示したい。難民・亡命希望者をしっかり受け入れることも含まれる。ところが…。
政府統計では、昨年の中国人難民申請者は前年から56%も減り134人だった(国籍別で12位)。難民申請中の就労がより難しくなり、中国人を含め就労などが主目的の“難民もどき”申請が急減したのだ。昨年の中国人難民認定者はゼロだった。
中国からの“真の”難民・亡命者は少数しか日本に来ていない。今年、香港市民の難民申請もまだ特に無い様だ。皆保護を明言している英米、台湾などを選ぶ。日本も彼らから希望される国になりたい。
香港の日本総領事館に亡命希望者が駆け込んだらどうするか。02年に瀋陽の総領事館に北朝鮮脱北者5人が駆け込んだ時、中国武装警官が敷地に入り5人を連行、日本の外交官は黙って見ていた。警官が落とした帽子も拾ってあげた。そんなサービスなどもう絶対見たくない。
刺激すれば報復もあり得る。中国は、新型コロナ発生状況の独立調査を厳しく求めたオーストラリアに露骨に報復している。でも日米豪印協力など他国ともスクラムを組み、腹を決めよう。刺激しなければ何も変わらない。時代劇の侍の対決ではないが、相手が「お主手強(てごわ)いな」と思えば侮れない。その上で協力すべき所は大いに協力する。そんな日中関係を望みたい。
(元嘉悦大学教授)











