影のパンデミック、コロナで子供結婚が増加する
「新型コロナのパンデミック(世界的流行)は、世界の教育体制に史上最悪の破壊をもたらした」(グテレス国連事務総長)。学校閉鎖の影響を受けた学生生徒は190カ国で約16億人。教育と経済の破壊で、特に厳しい状況に陥っているのが途上国の少女だ。端的な例が、子供結婚(17歳以下の結婚)の増加である。
国連児童基金(UNICEF)の報告(2018年)では、年間1200万人の少女が子供結婚をしている。世界の少女の21%、最貧国では40%(14歳以下は12%)。世界1位のアフリカのニジェールは76%(同28%)だ。
でも以前より減っていた。国連機関や1300以上の民間団体が子供結婚防止キャンペーンを続け、大半の国が禁止法を作った。同報告は、過去10年間に2500万件の子供結婚が防止され、年間の結婚少女人数も300万人減り、南アジアでは49%から30%に下がった、などの成果を記していた。
近年、途上国での女子教育の重要性が力説されている。「少女たちこそ変革のための最強勢力。少女に投資し、教育すれば、家族や共同体が強くなり、貧困が減り社会が発展する」という。だが、子供結婚をした少女は教育から脱落する。間もなく子供を産み(10代前半の母体には危険だ)、家族や社会内での発言力、影響力も弱い。
以前、「教育を阻む壁に勇敢に立ち向かっている」として国連から表彰された中に、モロッコの12歳の少女がいた。政府教育相が学校視察に来て声をかけた。「君、学校など時間の無駄だ。早く男を見つけて結婚した方がいいよ」。12歳は言い返した。「よけいなお世話よ」。その話が伝わっての表彰だった。ひどい教育相もいたものだが、法律ができても子供結婚の壁は高い。だが、地道な防止運動で壁は少し削られてきたのだった。
そこへコロナが到来、家計と教育を直撃した。
先生や友人が少女の話を聞き、相談にのれる学校は、子供結婚への抑止力だ。また、無料の学校給食は特にアフリカでは重要である。学校の閉鎖が続き、給食中止で家計の負担も増えた。それこそ「時間の無駄」認識が、家族に広がった。
コロナで生計が苦しい。そこで親は娘の結婚を考える。口減らしができ、相手から“逆持参金”ももらえる。
一方、地域封鎖や外出制限で、運動員の防止活動が難しくなった。時節がら結婚式も小規模で事前にわからない。親にとってはコロナで邪魔者が減った。
コロナ感染大拡大のインドの地方から「子供結婚が異常増加中」との報告が届いている。アフリカからも中東の戦乱の国からも。
NGO「ワールドビジョン」の予測では、今後2年間に子供結婚が従来の予想(コロナがなかった場合)より400万件増加する。国連人口基金(UNFPA)によれば、今後10年間で1300万件増加する見込みという。
子供結婚と関連し、結婚準備という女性性器切除(FGM)を施される少女もアフリカなどで増えつつある。FGM数世界一のソマリアなどでは、外出できず家にいる少女をねらい、施術業者が一軒一軒回りどんどん施術している様だ。UNFPAによれば、FGMも近年減少傾向だったが、今年は410万人が予想されている。ほとんどが少女だ。今後10年間でこれまでの予測より200万人増えると見られている。
そして家庭内暴力(DV)の被害、売春を余儀なくされる少女なども増えている。子供結婚その他の少女たちの苦境、ドロップアウト増加を「影のパンデミック」と呼ぶ関係者もいる。コロナ・パンデミック収束後も当分、「影」は途上国の女子教育の足を引っ張り続けるだろう。
(元嘉悦大学教授)