コロナで問われる報道の自由
抑圧は論外、人命最優先を
もし中国に報道の自由があったなら、世界的コロナ大感染は多分起きていなかっただろう――国際NGO「国境なき記者団」(RSF)は、感染の経過やシミュレーションの研究などをもとにこう主張している。
英サウザンプトン大学研究班の解析では、中国政府が1月20日にとった初動対策が2週間早かったら、中国での感染が86%も減少した可能性があるという。
確かに、メディアがより早く自由に報道できていたら、今ごろ世界は笑顔いっぱいかもしれない。
報道不自由でのさばったコロナが、更にまた報道を不自由にしている。
RSF、「ジャーナリスト保護委員会」(CPJ)、「フリーダムハウス」(FH)、「欧州報道・メディア自由センター」(ECPMF)など報道や民主主義に関する国際NGOや、報道機関の調査をつき合わせただけでも、コロナ危機を機に抑圧的な法規や措置を導入、実行している国は40以上に上る。当局発表と異なる報道や当局批判も「フェイクニュース」として処罰対象にもされる。
危機を強権化に最大利用したと言われるのが、ハンガリーのオルバン政権だ。同国の新法は、首相が必要と見なす期間、全選挙を中止し民主制度を棚上げし、ジャーナリストも迫害できる。「フェイクニュース」は最長5年の刑である。
コロナを口実にメディアを抑えて強権化を進めている政権は、他にも幾つかある様だ。
イランでは先月末、対コロナ戦闘本部が、感染拡大防止のためとして全新聞の印刷、配布の停止を命じた。ネット版はOKというが、この国で完全なネット版ができている新聞は、大統領府監督下の1紙だけ。多数の記者が「フェイク」で拘留されている。ヨルダンなど地域の4カ国も同様の発行停止措置をとった。
獄中ジャーナリスト数が世界第2のトルコ。コロナ報道でも8人が起訴を待っている。医師の感染を報じた地方紙の社主らが拘留された。地元の行政当局が事実と認めても、パニック扇動罪らしい。
報道不自由化は、ロシアなど旧ソ連諸国、インドなど東南・南アジア、サウジアラビア、エジプトなど中東・・コロナと共に世界各地に広がっている。
これまで感染が少なめだったアフリカ大陸でも、15カ国以上が報道を締め付けている。感染現地取材中、警官隊に袋叩(だた)きされる事件も少なくない。
非常事態でも報道の抑圧はダメだ。欧州評議会(47カ国加盟。人権、民主主義などの推進を目指す)の専門家委員会は声明を発表、「大不安時代の今日、独立メディアの役割が決定的に重要だと、各国は認識すべきだ。危機を情報制限の口実にしてはならない」と強く釘(くぎ)を刺した。情報制限は危機を一層不安なものにする。
日本では、安倍首相の記者会見が質問希望の挙手を無視して終了された、との不満が出る程度である。(余談だが、首相会見も外国の様に首相自身が次の質問者を指さす方式にしたら、官僚的ムードが減り親近感も増すだろう。30年以上前のパリ駐在記者時代、ミッテラン仏大統領が仏人記者より先に私を指名してくれたことがあり、感激したものだった)
とにかく人命最優先報道に徹するべき時。日本の左派メディアは反安倍優先で、かなり最近まで桜に関心を集中し、「政権がスキャンダル逃れに利用」などとコロナ事態を甘く見ていた。
政府の対応には中国への忖度(そんたく)など問題もあった。そこはきちんと批判しよう。だが反安倍主義で未知の病原体を軽視したら、情報隠蔽(いんぺい)も同然ではないか。
報道の自由がゆるがない国のジャーナリストは、特に責任の大きさを噛(か)みしめ直すべきだろう。
(元嘉悦大学教授)