グレタ旋風と中国機関車、気候変動対策はどう進むか

山田 寛

 

 16歳の少女、グレタ・トゥーンベリ旋風が吹きまくり、81歳の女優ジェーン・フォンダが米国会議事堂に毎週座り込んでは逮捕される。

 デモがいっぱいの今年。中でも地球規模で加速、拡大したのが、気候変動対策の遅れに抗議するデモだった。

 9月に国連気候行動サミットが開かれたが、温室効果ガス3大排出国の中国、米国、インドからガス削減国家目標の促進計画は示されない。米国は国際的枠組み「パリ協定」離脱を正式に通告した。

 来月2日からCOP25(気候変動枠組み条約締約国会議)がマドリードで始まる。だが、今の調子では世界の平均気温上昇を産業革命前から2度、できれば1・5度未満に抑えるというパリ協定の目標は、遠のく一方だ。

 二つ気になることがある。一つはグレタさんに関して。彼女を核とする街頭デモの参加者は、昨年末の2万人から今年9月20日には約150カ国で400万人(主催者発表)に増大した。少女はサミットで叫んだ。「若者はあなた方の裏切りに気付き始めている。私たちを失望させたら決して許しません」

 激しく怒りをぶつけるから世界の若者たちを引き付ける。その影響で、どこでも環境デモが激しい行動をとりだした。ジェーン・フォンダの“被逮捕戦術”もそうだが、オーストラリアで鉄道線路に自分の身体を縛り付けて列車を止めたり、フランスで市役所のマクロン大統領肖像写真を取り外して罰金刑を科せられたり、企業や銀行の社屋を封鎖したり。仏紙は「毎週、地球防護を名目にびっくりする事件が起きる」と表現した。

 だが一方、出るグレタ杭(くい)は打たれ出した。

 プーチン・ロシア大統領は「少女は利益追求者らに利用されている。嘆かわしい」と批判した。同様の主張はSNSで沢山流れ出した。「ドイツ人環境運動家、ルイーザ・ノウバウアー女史(23)が『調教師』で、グレタさんは言われるままだ。同女史が関係する財団を通じて、ジョージ・ソロス氏らから大支援を受けている。ソロス氏は反トランプ大統領。グレタさんは来年の米大統領選でカードとして利用されそうだ」という情報も広がった。

 さらには財団名の誤解によると思われるが、「中国系団体に支援されているから、グレタ演説は中国に厳しくない」などとうがった見方まで出た。

 実態はわからない。ノウバウアー女史は、自分は「調教師」などではないと否定している。とにかくグレタ運動には、透明で、変な政治・経済利用をされないよう望みたい。だがそのエネルギーは重要だ。彼女もこれからが正念場である。

 もう一つ気になるのは、中国がますます気候行動を主導していることだ。中国はフランス、カナダなどと共に、気候変動閣僚会合を主催している。米国が離脱表明したし、「パリ協定の要」の様に行動している。だが、中国には何より自国のガス排出削減のため大いに奮闘してほしい。協定に基づき中国が提出した「貢献目標」は甘すぎるし、他国がそれに協力するよう求めている。

 今年6月、国連事務総長と中仏外相が気候変動について会談して発表したプレス声明に、気になるくだりがあった。

 「フランスと国連は、環境に配慮した中国の『一帯一路』構想を評価し、関連のインフラ投資をパリ協定…などと整合させるため、中国と協力する用意を表明した」

 中国が機関車となるパリ協定列車は、中国の世界戦略と国益に沿う方向へどんどん進みはしないだろうか。今自国民を「職業訓練所」に強制収容する国が将来の人類を護(まも)れるのか。強く心配してしまう。

(元嘉悦大学教授)