辺野古移設に伴う埋立承認、県VS国「抗告公判」開始

過去全敗の県に手詰まり感漂う、「関与取り消し訴訟」は敗訴

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沖への移設をめぐる問題で、移設に反対する沖縄県が8月に提起した「抗告訴訟」の公判が26日、那覇地裁で始まった。並行して進めた「関与取り消し訴訟」は10月下旬に高裁で敗訴し、今回も県が敗訴する可能性は高い。翁長雄志前知事と同じように、玉城デニー知事も民意を背景にした訴訟で事態の打開を狙うが手詰まり感が漂っている。(沖縄支局・豊田 剛)

最高裁に上告、年内終結も/軟弱地盤の改良県、不承認戦術か

 26日に公判が始まった「抗告訴訟」は辺野古の埋め立て承認撤回を取り消した国土交通相の決定は違法だとして、決定の取り消しを求めるもの。県の担当弁護士は、新たに見つかった埋め立て予定地の軟弱地盤による工期延長や周囲の海域生物への影響は十分に撤回の理由になるはずだと期待を示す。

辺野古移設に伴う埋立承認、県VS国「抗告公判」開始

支援者と共に那覇地裁に向かう玉城デニー知事(手前右)=26日、沖縄県那覇市

 ただ、過去の辺野古の埋立承認をめぐる一連の裁判を見ても、県の言い分が採用されたことはない。この件で撤回取り消し裁決を不服として県が審査を求めた国地方係争処理委員会は6月、審査対象に当たらないとして県の申し出を“入り口”で却下している。今度の裁判でも、具体的に中身が論じられず、県が敗訴する可能性は高い。

 県にとって、兵庫県宝塚市のパチンコ条例をめぐる2002年の最高裁判例が重くのしかかる。パチンコ店の建築中止を求めて同市が提訴したのに対し、最高裁は条例の内容を検討せず訴えを退けた。国や行政に対し、単に条例や規則に従うよう求める訴訟は起こせないというもので、18年3月の埋立に伴う岩礁破砕差し止め訴訟ではこの判例がよりどころになった。

 もう一つ、県が今年7月に提起した「関与取り消し訴訟」は、県の「埋め立て承認撤回」を取り消した国土交通相の裁決を「違法な国の関与」として、その取り消しを求めるものだったが、福岡高裁那覇支部は10月23日、県の訴えを却下する判決を下した。

 県は、地方自治法に基づき承認撤回の効力回復を求めていた。国の機関である防衛省沖縄防衛局が一般私人の権利救済を目的とする行政不服審査法(行審法)を使って国交相に審査を申し立てたのは違法であると主張したが、「訴訟の対象になり得ない」と判断された。県は判決を不服とし、10月30日、最高裁に上告した。県の担当弁護士は、「早ければ年内にも終結する可能性がある」と推測する。

辺野古移設に伴う埋立承認、県VS国「抗告公判」開始

県の辺野古訴訟支援者が勉強会を開催した=9月29日、沖縄県那覇市の沖縄県市町村自治会館

 辺野古移設をめぐる県と国の訴訟は8件で、県の提訴は6件。翁長前知事が4件、玉城知事になって2件だ。過去の訴訟では、3件で和解し、16年の最高裁判決を含めて2件で県の敗訴が確定、1件は県が訴えを取り下げるなど、県に厳しい結果が続いている。

 翁長氏と同様に、「辺野古に『新基地』を造らせない」ことを最大の公約とする玉城氏も、辺野古移設に反対する民意を後ろ盾に、政府との対話で工事中止を求めてきた。ただ、政府との対話は平行線のままで、提訴に頼らざるを得ない現状がある。

 名古屋大学名誉教授の紙野健二氏は9月29日に那覇市で開かれた辺野古訴訟支援者集会で、「辺野古問題で、国は積極的に情報を開示すべきだ」と求めた上で、「裁判所は中身を議論しておらず、これまで事実上の門前払いになっている」と指摘、中身に入らない限りは県にとって厳しくなると分析した。知事を支持する県議ですら「勝てる見込みがあるとは思っていないが」と漏らした上で、「大きな民意の高まり」への期待を示すにとどまった。

 一方、政府にとっても辺野古移設は簡単ではない。軟弱地盤の地盤改良のためには知事の設計変更承認が必要だ。来年早々にも地盤改良工事のための設計変更申請をする見通しだが、玉城氏は認めない方針だ。埋め立て区域のサンゴ移植許可に関しても、判断を下さず放置する戦術を取っている。

 これに対して、政府が違法確認訴訟を起こして勝訴すれば、地盤改良工事が可能となる。また、地盤改良工事やサンゴ移植に関する知事権限を利用して工事を遅らせることしか手だてはない。辺野古移設問題に詳しい徳永信一弁護士は、「国益を主張する国の訴えに対して裁判所が踏み込んだ判断をしないのは当然のこと」と話す。


=埋立承認取り消しをめぐる主な動き=

2013年12月 仲井真元知事が代替施設建設のための公有水面埋立を承認
2015年10月 翁長雄志前知事が公有水面埋立承認取り消し
2016年12月 国交相の知事に対する是正指示で、最高裁が国勝訴判決
2018年3月 岩礁破砕差し止め訴訟の那覇地裁判決で県が敗訴
2018年7月 翁長氏が埋立承認の撤回を表明
2018年8月 翁長氏死去に伴い、謝花副知事が公有水面埋立処分を撤回
2019年4月 国交相が取り消し処分を取り消す裁決
2019年7月 玉城知事が「関与取消訴訟」を提起
2019年8月 県が裁決取消を求めて「抗告訴訟」を提起
2019年10月 「関与取消訴訟」の高裁判決で県が敗訴、県は上告