波乱予想させる新年経済、低成長の中で消費増税
昨年末の株価の乱高下は、迎えた2019年の日本経済に波乱の展開を予想させる。終わりの見えない米中貿易戦争、中国経済をはじめとした世界経済の減速化、国内では成長力の乏しい状況の中、10月には消費税の10%への引き上げが実施の予定である。自動車や住宅など一部で減税などの増税対策や初導入の軽減税率も同時に実施されるが、それで十分か。頼りの春闘での賃上げも、厳しい環境条件の下でどこまで期待できるか。今年で7年目となる安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」は“ラッキー7”の年にできるか、いよいよ正念場である。
(床井明男)
厳しい賃上げ環境
増税対策は十分か?
先月20日、政府は現在の景気拡大が戦後最長の「いざなみ景気」(02年2月~08年2月の6年1カ月)に並んだ可能性が高いとの認識を確認。茂木敏充経済財政担当相は「雇用・所得環境が大幅に改善した」と強調した。
第2次安倍政権が発足した12年12月を起点とする現在の景気拡大は、日銀の大規模金融緩和を背景に円安・株高が進み、海外経済の拡大もあって輸出主導の息の長いものとなり、就業者数を増やすなど雇用環境も改善させた。この点で、「戦後最長の景気拡大」はアベノミクスの大きな成果の一つと言える。
新年1月には戦後最長の更新も確実視されているが、実質経済成長率は年平均で10%を超えた「いざなぎ景気」(1965年11月~70年7月)や、消費が活発化した「バブル景気」(86年12月~91年2月)と比べ、1%台と力強さが大幅に劣り、国民に好況の実感の乏しいものになっている。
これには経済の成熟化や、人口減少の影響など、さまざまな要因が指摘されているが、直接的にはやはり賃金や所得の伸びが小さいからであろう。
こうした状況を何とか打開すべく、安倍政権は今年も春闘による賃上げに期待し、年明けから本格化する19年春闘に向け、6年連続となる賃上げ要請を、既に昨年末から始めている。
安倍政権が賃上げに力を入れるは、賃上げによる所得の向上が、経済の好循環すなわち消費増↓販売増↓企業収益増↓生産・設備投資増、消費増――につながるからである。
首相が直接、経済界に賃上げを求める「官製春闘」は今年で6年目。昨年の春闘では首相が3%の数値目標を示し、それに応える形で、月例賃金や一時金のほかに諸手当も含めて積極的に3%以上の賃上げを実施する企業も出てきた。
安倍首相は昨年末の経団連の会合で、「景気の回復基調をより確かなものとでできるような賃上げをお願いしたい」と数値こそ示さなかったものの、元号が平成に変った1989年当時の賃上げ率が5%程度だったことを引き合いに、積極的な賃上げを要請した。
首相としては、特に今年は10月に消費税増税を実施する予定だけに、税制改正や今回初めて導入する軽減税率などで増税対策に取り組んでいるが、賃上げを景気の腰折れ回避への大きな援軍にしたい考えである。
ただ、賃上げ率は2000年代以降の2%を下回る水準であった時期から比べれば、アベノミクスが始まって以降は2%を超え、確実に高まっているとは言えるが、首相が例に出した30年前の5%には程遠い。
しかも、賃上げ環境は米中貿易摩擦の激化などもあり、より厳しくなってきている。最新の日銀12月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、規模や業種の違いを問わず、3カ月後の業況が悪化を予想するなど、企業マインドは先行き懸念を強めている。
米中の対立は中国の通信機器大手、華為(ファーウェイ)副会長の逮捕を契機に、貿易摩擦の域を超えて覇権争いの様相を呈し、収束が見えない。また中国経済の減速や英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる混乱、厳しい展開が予想される年明けからの日米貿易交渉など、日本経済を取り巻く環境は懸念要因が山積する。
大企業全産業で18年度の設備投資計画は前年度比14・3%増と依然高い水準を維持しているが、今後は手控えに転ずる恐れも予想される。
設備投資は既に7~9月期に変調が現れている。同期の国内総生産(GDP)伸び率は、設備投資の落ち込みなどにより、速報値から実質0・6%減、年率では2・5%減と下方修正された。12月短観でも、これまで輸出が好調だった電子部品や工作機械などの関連業種から外需が鈍化しているとの声が聞かれ、景気の現状は製造業を中心にピークアウト(頭打ち)が鮮明になりつつある。
そんな状況の中で、10月に消費税増税が予定されている。自然増収だけでは賄えない歳出の増加に対して、消費税は国民から広く薄く徴税できるため、特に年々増加が見込まれる社会保障費の安定財源として期待されているためだ。しかし、その一方で消費税には所得が低い層ほど負担が多きくなるという逆進性がある。
政府は前回14年度の消費増税後、消費の低迷が予想以上に長引いた経験から、今回、一般会計総額で101・4兆円とした来年度予算に2兆円強の消費増税対策を盛り込み、また初めて軽減税率を導入する。
消費税対策については、与党からも「そこまでやる必要があったのか」(自民党幹部)との疑問の声も上がったが、それは政権側の、そこまでしてでも増税実現の環境を整えたいという強い意思の表れとも言える。
問題は、日本経済を取り巻く環境が厳しさを増す中、そうした増税対策で十分か、また20年度までの2年間で予定通り終わらせることができるかという点だ。
また、一番の歳出項目である社会保障費については、増税に頼るたけでなく、持続的で安定した制度構築が不可欠。将来不安から消費控えの一因でもあるため、抑制に向けた制度改革を不断に進めることが重要だ。