新幹線は道南圏を視野に
北海道新幹線開通から1年
株式会社シィービーツアーズ代表取締役社長 戎谷侑男氏に聞く
昨年3月26日に新青森―新函館北斗間で北海道新幹線が開通して1年が経過した。同新幹線の利用客は200万人を超え、幸先の良いスタートを切った。北海道新幹線は北海道観光の将来に大きな期待をもたらしているが、その一方でJR北海道は昨年11月、「(廃止を含め)単独では維持が困難な路線」として10路線13区間を発表、厳しい経営状況を報告した。今後、北海道新幹線、既存鉄路、バスを含めた北海道観光の在り方について北海道観光産業に携わる北海道中央バスグループの旅行会社、株式会社シィービーツアーズの戎谷(えびすたに)侑男・代表取締役社長に聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)
「夏の函館」と「冬のニセコ」
連携すれば相乗効果生む
北海道新幹線が開通してから1年が経ちました。利用客は200万人を超えたということですが、開通の成果をどのように見ますか。

えびすたに・ゆきお 1946年、滝川市生まれ。北海道中央バスに入社。91年、中央バスグループの旅行会社シィービーツアーズに設立から関わる。2007年、代表取締役社長に就任し現在に至る。たきかわ観光協会副会長、NPO法人北海道遺産協議会理事など多数の公職を務める。
新青森―新函館北斗間で新幹線が開通することで、北東北および函館圏では人の動きが頻繁になり、賑(にぎ)わいを見せている。この1年の北海道新幹線の利用客数は229万人で、1日当たりで換算すると6300人に上る。新幹線の開通で函館山・函館の名所・旧跡、五稜郭タワーなどは入場者数が前年に比べて大幅に増えている。
また、日本三景の一つである東北宮城の松島を訪れる観光客も増え、観光汽船も好調だという。このように人の動きが活発になった背景には、もちろん新幹線の開通があるが、それ以上に新幹線開通によって交通手段に多様性が生まれたことがある。
例えば、目的地の函館までは新幹線を利用するが、帰りは飛行機を利用する。あるいは、フェリーと新幹線を利用するといったように旅行に多様なバリエーションが生まれ、その相乗効果が出てきているのだろう。こうした傾向は、今後も続いていくだろうし、業界としてもそれを期待している。
北海道では、新幹線について今後、冬場の利用客を増やすことが課題だと言っていますが、この点についてはいかがでしょうか。
新幹線が開通してからの1年間の状況を見ると、終着地点となっている北斗市と隣町の函館市に観光客が集中しているきらいがある。というよりも、現在は新幹線でやって来た観光客を両市が抱え込んでいるようにも見える。
もちろん、これは開通してから間もないということもあるが、この状況が続けば、新幹線が北海道にやって来たという意味合いが薄くなる。やはり新幹線で北海道にやって来た観光客が、函館圏を起点に道内各地に散らばるというのがベストの姿であろう。少なくとも、ニセコ、洞爺湖、登別といった道南圏まで新幹線効果が及ぶようにならなければ意味がない。
そこで、私は函館・ニセコ圏で観光連携を取るべきだろうと考えている。ちなみに函館は今まで冬場の観光は振るわず、むしろ夏場に多くの観光客が訪れる。
一方、ニセコは、冬はスキー客であふれるものの、夏場の観光は閑散としているのが実情。従って、夏場の函館圏の観光客をニセコに、ニセコの冬場の観光客を函館圏につなげる。そうした取り組みを進めてるホテル関係者もいるが、お互いのメリット、デメリットを補足することでプラスの相乗効果が生まれる。
こうした可能性を実現させるような知恵を出して道南の観光を盛り立てていくべきではないかと考えている。さらに言えば今後、北海道新幹線が札幌まで延伸するとなれば、新函館北斗駅は、一つの通過点にすぎなくなる。函館圏に観光客をつなぎ留めておく意味でも今からニセコ、洞爺、登別を含めた道南圏の観光連携の道筋を立てておくべきだ。
北海道新幹線が開通する一方で、JR北海道は昨年11月、「単独では維持が困難」な線区として10路線13区間を発表し、地元自治体との協議を進めていきます。これについてどう思われますか。
私どもはバス会社系列旅行会社ですが、鉄路は道路と並んで重要な交通路の一つと考えている。人間に譬(たと)えれば鉄路は大動脈といえる。その大動脈が無くなるということは、地方の自治体あるいは北海道そのものの存続に関わってくる。
確かに、JR北海道の場合は他のJR各社に比べて過酷な自然環境や脆弱(ぜいじゃく)な経営基盤という側面を持っているため、国や道の支援は今後も必要、政府もJR北海道を国全体として捉えるべきだと思う。しかし、併せてJR北海道も乗ってもらう工夫、自治体も乗る工夫など知恵を出していく必要がある。
例えば、乗客がいなければ、貨物輸送も併用したり、鉄道とバスを利用した観光ツアー企画や「鉄道の日」を設け、それに合わせた企画で乗客を増やすなど、皆で知恵を出し合うことが重要だろう。
鉄道とバスという点で御社では、昨年から鉄道とバスを利用した「歴史街道ツアー」を企画していますね。
北海道内を通る国道275号は明治開拓期に造られた道路で、歴史街道としての意味合いがある。わが社では平成27年から国道275号で繋(つな)がる町々を「町長がバスガイド歴史街道ツアー」として企画した。
このツアーの特色は、何よりも275号線沿いの町長が同乗し自らバスガイドとなって「わが町」をアピールする事。また、月形駅から浦臼駅または新十津川駅までJR札沼線を下って列車の旅を満喫すること。さらに各町長からは特産品の土産が付くという特典がある。
特に新十津川町の熊田義信町長は、「このツアーを通してJR北海道の路線存続を訴えたい」と語り、ツアーへの参加を快く承諾して頂いた。
わが社では、この他にも北海道の縄文遺跡や炭鉱跡地などを巡るツアーを企画しているが、北海道の財産ともいうべき歴史遺産を再発見することで北海道の文化を道内外に発信していきたいと考えている。