アブサヤフ、活動領域拡大
フィリピン南部を拠点とするイスラム過激派アブサヤフが、ボートでフィリピン中部に上陸し、治安部隊と衝突して多数の死傷者が出た。日本や米国など各国大使館が渡航自粛勧告を出すなど、テロの懸念も広がっており、治安当局は対策の強化を迫られている。
(マニラ・福島純一)
比中部で治安部隊と交戦
封じ込め難航、ISテロも懸念
フィリピン中部ボホール州で11日、イスラム過激派アブサヤフと治安部隊が交戦となり、兵士と警官5人が死亡。アブサヤフ側も4人が死亡した。アブサヤフはイナバンガ町にある川から複数のボートで上陸し、住人の通報で駆け付けた治安部隊と交戦となった。この戦闘で約100人の住人が避難するなど大きな混乱を招いた。
アブサヤフは構成員の上陸には多すぎる3隻のボートを使用しており、ボホールで複数の外国人を誘拐して、南部に連れ去る計画だったとみられている。
米国大使館はアブサヤフ襲撃の2日前に、中部ビサヤ地方で過激派による誘拐の脅威があるとして自国民に注意喚起を呼び掛けていたが、これが的中する結果となった。中部ビサヤ地方には、ボホールの他セブなどの観光地も含まれおり、多くの外国人観光客が訪れる場所だが、これまでアブサヤフが活動する地域ではなかった。
アブサヤフは依然として身代金目的の誘拐テロを繰り返しており、13日にはスルー州で、昨年12月に漁船を襲撃されて連れ去られていたフィリピン人男性が斬首されて殺害された。アブサヤフは300万ペソの身代金を要求していた。国軍当局者は、人質男性が病気を患っており、移動することが困難になったことから殺害されたとの見方を示している。
またアブサヤフが忠誠を誓っている「イスラム国」(IS)の構成員がフィリピン国内に潜伏してたことも明らかとなり、国内でのテロ活動の懸念も高まっている。
アギレ司法長官は6日、マニラ首都圏でISの構成員とみられる外国人の男女2人を拘束したことを明らかにした。同長官によると2人はクウェート国籍の男とシリア国籍の女で、先月25日にタギッグ市で拘束された。米FBIからの情報から、男が爆弾製造に関わるISの構成員で、クウェートでテロを計画している可能性があり、国内の治安にも影響を与える可能性があることから拘束に踏み切った。
ミンダナオ島の国軍当局は、ボホールでの戦闘でアブサヤフのリーダーが死亡したことを受け、報復テロが実行される可能性を指摘し、警戒を強化する方針を明らかにしている。
国軍はドゥテルテ大統領の命令で、6月末を期限にアブサヤフ掃討作戦を続けているが、殲滅(せんめつ)には至っていない。2日にはスルー州で、国軍がアブサヤフと交戦し国軍兵士32人が負傷。10人以上のアブサヤフ構成員が死亡している。
アブサヤフは主に南部の近海で、貨物船などの船舶への襲撃、船員の拉致を繰り返しているが、時には今回のように拠点のバシラン州やスルー州から遠く離れた観光地を襲撃するなど、神出鬼没の様相を呈しており、治安当局の対応を難しいものにしている。
今回のボホール襲撃では、直前に米国大使館が出した渡航勧告に対し、国軍が具体的な脅威はないと指摘するなど、諜報能力の限界も露呈。テロ対策における米国との連携の重要性も浮き彫りとなった。
観光省は今回のボホールの襲撃に関して、すでに事件は解決しており観光客の渡航は問題ないとの見解を示しているが、米国や欧州各国は引き続き注意喚起を呼び掛けており、治安認識に関する温度差も浮き彫りとなっている。このままアブサヤフの封じ込めが難航すれば、主要産業の一つである観光業界への影響も懸念されるところだ。