17年の日本経済、国内需要の強化がカギ

真価問われる5年目の「アベノミクス」

 2017年が明けた。安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」も5年目を迎え、真価を問われる時期である。海外では昨年11月に世界の関心を集めた米大統領選にトランプ氏が当選し、以後、市場はトランプ氏が表明した政策を好感する「トランプ相場」が続いた。そのトランプ氏は20日にいよいよ米大統領に正式就任する。実際にどのような政策を打ち出し、新年の日本経済はどうなるのか展望する。(経済部・床井明男)

「トランプ」要因どう影響
金融の緩和強化に転換も

 16年の日本経済は前半の円高もあり、個人消費や設備投資など国内需要、輸出とも冴(さ)えない状況が続いた。景気を拡大する牽引(けんいん)役が不在だった。

800

閣議に臨む安倍晋三首相(右から2人目)。この日の閣議で、一般会計総額が過去最大規模の97兆4547億円となる2017年度予算案を決定した=12月22日、首相官邸

 成長率は外需要因で数値が高く出る時もあったが、喜べる状況ではなかった。輸出も伸びなかったが、それ以上に輸入が伸びず、それが純輸出の増加として成長率を押し上げただけ。実態は「内需低迷の反映」だった。

 政府が昨年、16年度の2次補正、3次補正予算を組み、年末に97・5兆円という過去最大規模の17年度予算案を決定したのも、内需強化、経済再生のためだ。経済再生は外需に影響を受けにくい内需主導の自律的成長が不可欠。内需の強化がカギとなろう。

 その17年度予算は、確かに過去最大規模だが、一般会計総額で16年度当初比7329億円増、国の政策経費である一般歳出では5305億円の増加で、伸びはそれぞれ0・76%、0・92%。ほぼ横ばいというのが実情。

 これは政府が目安として掲げている財政健全化計画が、一般歳出の伸びを16年度から3年間で1・6兆円(年間約0・53兆円)に抑えており、予算案はこれに従った形で、「経済と財政のバランスの取れた予算」(麻生太郎財務相)としたわけだが、デフレ脱却には半端で物足りなさが残った。

 その一つは、安倍政権が現在掲げる「1億総活躍社会の実現」や「働き方改革」に向けた保育士・介護人材の処遇改善、給付型奨学金の創設だ。

 特に返済の必要のない給付型奨学金は今予算案の目玉政策の一つ。低所得者世帯の大学生ら約2万人を対象に、国公立・私立や下宿・自宅の違いにより月2万~4万円を支給するというものだが、17年度は成績優秀な私大下宿生に限って先行的に始め、18年度から本格手に実施するとはいえ、金額で見ても名ばかりで中身が貧弱。保育士・介護人材への処遇もまだまだ水準が低い。

 研究開発の促進も銘打った割には、人工知能(AI)やロボットといった先端分野を含む科学技術振興費はわずか0・9%増。厳しい財政事情の下、仕方ない面もあるが、何とも寂しい。これらはいずれも未来につながる投資として、一段の充実が求められよう。

 国内景気は相変わらず低迷しているものの、補正予算の政策効果などもあり、16年度後半から改善の傾向が出始め、政府、日銀とも昨年末に景気判断を引き上げた。

 これには米大統領に決まったトランプ氏の政策への期待感から米国で株価が連日史上最高値を更新する状況になり、日本も株高・円安が進行していることも援軍になっている。日銀の黒田東彦総裁は、昨年末の講演で「風向きは逆風から変わりつつある。世界経済が(回復の)新局面に入る中、これから追い風を受けさらに前進していく」と日本経済の先行きに期待感を示す。

 ただ、トランプ氏が主張する大幅減税や大型インフラ投資などがどこまで実施され、また就任当初に表明するとした環太平洋連携協定(TPP)の離脱や、保護主義的な政策が現実に実行されるのかなど不透明な部分も少なくない。12月の日銀短観には、企業が先行きに警戒感を抱き、設備投資に慎重になっている姿勢が示された。今後、企業が設備投資や賃上げに積極的になっていくのかどうかは、トランプ氏の政策次第という面は確かに大きそうだ。

 トランプ氏の影響は金融面でも出てこよう。既に昨年の秋ごろから、長期金利には景気の回復期待を背景に上昇圧力がかかってきており、そこに「トランプ相場」による株高・円安の影響が加わった。

 日銀は一段の金融緩和強化策として、昨年9月に長期金利を0%程度に誘導する新たな枠組みを導入。金融界を中心に批判の強いマイナス金利政策も継続しているが、総裁の言う「新局面入り」でこうした従来の政策に変更のないのかどうか。総裁は慎重姿勢は依然崩していないが、トランプ氏の登場は、経済に限らず、少なからぬ変化を予感させる。