野心的ビジョンで「先進国」へ
観光は「地方創生」の切り札
政府が昨年3月末、「明日の日本を支える観光ビジョン」を発表し、2020年の訪日外国人観光客数の目標を、それまでの2000万人から「4000万人」に倍増させるとともに、宿泊・飲食代などの消費額の目標を「20年に8兆円」に上げた。また、30年にはそれぞれ6000万人、15兆円としている。
都市部からの誘導で「4000万人」
20年に「5600万人」の試算も
観光産業の国際競争力強化のため、日本政府と観光業界が連携してPR活動を始めたのは03年。当時の訪日客数は約521万人だった。08年10月には観光庁を発足させ、「2020年に2000万人」を目標に、「観光立国」に向けて本格スタートを切った。
その後、13年には、訪日客が1000万人を突破し、一昨年にはほぼ2000万人を達成した。それでも、「4年後に4000万人達成は厳しい」との指摘もある。しかし、過去数年の訪日客数の伸びや東京五輪・パラリンピックの開催、何より日本の観光資源の潜在力からすれば、決して不可能な数字ではないだろう。
「観光はわが国の成長戦略の柱の一つ、地方創生の切り札だ。野心的で具体的政策に満ちたビジョンを決定できた」。ビジョン構想会議で安倍晋三首相はこう語るとともに、観光を基幹産業とする「観光先進国」を目指す方針を示した。
観光庁の発足前年(07年)、訪日客数は835万人だった。当時、2000万人の目標を掲げたことについてさえ、専門家から「前途多難」の声が出た。日本の観光資源に対する自己評価が低く、それまでの取り組みがいかに消極的だったかが分かる。4000万人の目標達成は短期では難しいのではないかとの見方に対して、安倍首相は「2000万人も難しいと言われたが、それを見事に前倒しで実現した」と自信を示す。昨年の実績は観光先進国に向けた一つの通過点というわけだ。
今後の課題は都市部に集中している外国人観光客をいかにして地方に誘導するか。現在、外国人の6割は東京、名古屋、京都、大阪をつなぐ「ゴールデンルート」に集中しているため、都市部では、ホテルが満室になり、ショッピング街が混雑するなど、問題も顕在化している。
このため、ビジョンは外国人観光客を都市部だけでなく、全国各地に呼び込むため、新たな数値目標も決定。地方における20年の外国人の延べ宿泊数を15年の3倍弱に当たる7000万泊とし、30年には1億3000万泊に増やす計画だ。
具体策としては、①迎賓館など公的施設の開放②国立公園のブランド化③欧米の富裕層向けプロモーションの展開④疲弊した温泉街の活性化⑤中国、フィリピン、ベトナム、インド、ロシアを対象にしたビザの発給要件緩和⑥出入国審査の円滑化―といった施策も盛り込んだ。
一方、観光地と買い物エリアを組み合わせた外国人観光客向けの周遊モデルを全国46コース作り、日本政府観光局(JNTO)のホームページで紹介している。また、全国から景観や歴史、温泉といったテーマ性を持たせる「広域観光周遊ルート」を公募し、名古屋から岐阜県の飛騨高山地方を抜けて富山、金沢両市へ至る「昇龍道」など11ルートを認定。海外の旅行会社にPRを展開し、ルートに基づいた人気ツアーが生まれることに期待を寄せている。
このほか、酒蔵や映画のロケ地、神社仏閣などそれぞれの切り口で全国を巡る旅行についても、周遊プラン作りやプロモーションを支援。古民家や農家に滞在する観光の振興に向け、検討会も立ち上げた。
これらは、前例のない大胆な取り組みと言えるが、観光先進国への歩みは緒に就いたばかり。今後多くの外国人に地方に足を向けてもらうには、国と地方、民間による継続的な努力が欠かせない。
だが、日本の観光潜在力はもっと高いという見方もある。観光ビジョン構想会議のワーキンググループ(WG)に出席した英国人アナリストのデービッド・アトキンソン氏は、「実は日本という国は、世界でも数少ない『観光大国』になりえる国の1つ」(著書『新・観光立国論』)としながら、訪日客数の目標を20年は「5600万人」、30年は「8200万人」に増やせるとの試算を行っている。