「御代替わり」をどう教える
麗澤大学大学院特任教授 高橋 史朗
官民協力し教材作成急げ
子供たちに正しい知識・情報を
4月22日、天皇陛下の御退位および皇太子殿下の御即位に合わせ、文部科学省は全国の都道府県教育委員会などに向けた通知で、「国民こぞって祝意を表する意義について、児童生徒に理解させるよう」配慮を求めた。
通知では、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」に基づき、「国民は天皇陛下を深く敬愛し、この天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感していること」や、「天皇の即位の日及び即位礼正殿の儀の行われる日を休日とする法律」の趣旨を踏まえ、「各学校において、あらかじめ適宜な方法により」教えるよう、学校への周知を要請した。
誤った教育される懸念
この問題は3月4日の参議院予算委員会でも取り上げられ、有村治子議員の質問に対して、柴山昌彦文部科学大臣が「天皇についての理解を深める指導を行う場合の参考となるように、…皇位継承に関連する国事行為が行われることなどに関する資料を内閣府などと連携しながら周知をしていくことについてもぜひ検討したい」と答弁した。
有村議員は「天皇陛下を国民は、ずっと126代万世一系を保ってきた、その国民との紐帯(ちゅうたい)ということにも分かりやすく、小中学生あるいは家庭学習、地域学習で学べるような形に御努力をいただければ有り難い」と要望した。
この有村議員の質問は、「美しい日本人の心を育てる」ことを理念として、教育正常化に尽力してきた全日本教職員連盟が1月16日に安倍総理に対して、「『美しい日本人の心』を育むことに資する施策推進に関する要望」を提出したことを踏まえたものである。
全日本教職員連盟によれば、学校現場には御代(みよ)替わりに係る国事行為としての儀式や皇室の行事等を通して、わが国の国柄を学ぶための教材等がない。このことは次の問題を惹起(じゃっき)する。
第一に、御代替わりについて知見の無い教師や保護者は、子供たちに正確な知識や情報を伝えることができない。
第二に、天皇制や国旗掲揚・国歌斉唱に反対する特定のイデオロギーを持った教師(共産党系の全教や日教組等)が、子供たちに間違った知識や情報を教える。
とりわけ、日本国憲法第1条の「象徴天皇」規定の意味について、これらの教員組合の理論的指導をしてきた戦後の憲法学者が以下のように強調してきたように、単なる「象徴にすぎない」点を強調することが懸念される。
すなわち、戦後憲法学者の代表格である東大の宮澤俊義教授の『全訂日本国憲法』には、「その趣旨は、積極的に天皇が国の象徴たる役割以外に役割を原則として持たないことを強調するにある。…ただ内閣の指示に従って機械的に『めくら判』を押すだけのロボット的存在にすることを意味する。これがまさに本条の意味するところである」と書かれている。
しかし、「令和」への改元を祝う感謝と喜びに満ちた日本国民の姿や天皇即位30年や退位に伴う天皇と国民が一体となった深い心の絆は、天皇は「象徴にすぎない」ロボット的存在ではないことを如実に示した。
このような二つの懸念を未然に防ぎ、教員が子供たちに自信を持って十分な指導ができるようにするためには、国として、御代替わりをどのように子供たちに伝えるべきかを示した教材が必要である。
アーカイブ作成も重要
そこで、全日本教職員連盟は具体的に次の2点を要望している。①御代替わりに関する教材(リーフレット等)を作成すること②御代替わりに関するアーカイブを作成すること。
小学校社会科学習指導要領には、「『天皇の地位』については、…国事行為や…各地への訪問などを通して、象徴としての天皇と国民との関係を取り上げ、天皇が日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることが理解できるようにする。…これらの指導を通して、天皇についての理解と敬愛の念を深めるようにする必要がある」と明記されている。
これが空文とならないように、批判を恐れず官民が協力して授業で活用できる教材の作成を急ぐ必要がある。また、御代替わりに関する記録を保存・活用するアーカイブの作成に取り組むことも重要である。
(たかはし・しろう)