米民主党の大統領弾劾論、世論と乖離


難しい舵取りのペロシ氏

 トランプ米大統領がロシア疑惑をめぐる調査を拒否していることについて、野党民主党の一部で弾劾論が高まっているが、世論の支持は十分に得られていない。こうした中、性急に弾劾の手続きを開始すれば、かえって有権者の反発を招きかねない。党内急進派からの要求にさらされる民主党のペロシ下院議長は難しい舵(かじ)取りを迫られている。

ペロシ米下院議長

ペロシ米下院議長(UPI)

 「民主党は下院で調査すること以外に議会で何もしていない」。トランプ氏は23日、ホワイトハウスで行った演説で、同氏の罪を認めなかった捜査報告書の公表後もロシア疑惑の調査を続ける民主党を非難。ペロシ氏については「長い間彼女を見てきたが、以前とは同じ人ではない。狂ったナンシーだ」と罵倒した。

 これに対し、ペロシ氏は会見で、「トランプ氏の家族かホワイトハウスのスタッフが国のために(トランプ氏の言動を)改善することを望んでいる」と反撃するなど、激しい言葉の応酬が繰り広げられた。

 21日には、ホワイトハウス法律顧問を務めたドナルド・マクガーン氏が、トランプ氏の要請で議会証言を拒否したことに民主党側が強く反発。政治専門紙「ザ・ヒル」によると、これまでのところ同党下院議員の33人がトランプ氏弾劾への手続き開始を求めている。

 こうした党内からの圧力を受け、ペロシ氏は「トランプ氏は疑惑を隠蔽(いんぺい)している」と批判するなど追及姿勢を強めている。しかし、弾劾手続き開始には慎重姿勢を保ったままだ。

 ペロシ氏は23日、「民主党は弾劾に向かっていない」と明言し、党内の動きを牽制(けんせい)。当面は調査を続けるべきだとする立場を示した。

 背景には、世論の十分な支持を得られていないことがある。キニピアック大学が今月上旬に発表した世論調査結果によると、弾劾の手続きを開始すべきでないとの回答が66%だったのに対し、開始すべきは29%にとどまった。

 また、下院で仮に弾劾が決議されても、共和党が過半数を握る上院で阻止されるのは確実だ。実現する見通しがないまま議会が弾劾をめぐる議論に終始すれば、2020年の大統領選で、民主党は下院過半数を獲得後の2年間、実績を十分に示せないことにもなりかねない。

 こうした状況を踏まえ、ペロシ氏は「弾劾手続きが進められることをトランプ氏が願っていることは疑いの余地がない」と指摘。性急に弾劾に動けば、かえってトランプ氏の術中にはまるとの警戒感も示している。一方、トランプ氏はロシア疑惑への捜査が続く間は、政策議論はできないとの立場を示すなど、対決姿勢を強めている。来年に大統領選を控える中、こうした与野党の駆け引きに注目が集まっている。

(ワシントン 山崎洋介)