読み聞かせは「心の食事」

絵本教育者の浜島代志子氏に聞く

親子の円滑な関係構築が虐待を防ぐ

 千葉県野田市の小4女児死亡事件を踏まえ、厚生労働省は親権者や児童福祉施設の責任者らは「しつけに際して体罰を加えてはならない」と明記した児童福祉法の改正案を検討している。児童虐待・家庭崩壊の背景には、夫婦間・親子間の希薄な関係がある。対話式絵本の読み聞かせを主唱する絵本教育者の浜島代志子氏に親子関係の構築・再構築に役立つ「対話式絵本読み聞かせ」について聞いた。(聞き手=豊田 剛)

「対話式」こそ、相乗効果が大きい

絵本教育者の浜島代志子氏

絵本教育者の浜島代志子氏

 ――最近、児童虐待のニュースが増えている。

 千葉県松戸市の小学校で児童をいじめる教師の声がSNSで拡散された。野田市で小4児童の虐待死事件が明るみに出たことで公開されたと思われるが、似たような事例はどこの小中学校でも起きている可能性がある。

 ――児童虐待の根本にある問題は何だと思うか。

 家庭環境に恵まれない児童がクラスに数人いると、教師が頑張っても、制御できなくなり、いわゆる「学級崩壊」が起きる。大本の原因は家庭環境にある。荒れた子供が親になれば、より悲惨な家庭崩壊が起きるという負の連鎖が起こってしまう。

 「中間子理論」でノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士は「幼児期の教育が後の自分をつくった」と言っている。国の未来を背負う子供の基礎は家庭で育まれる。

「対話式絵本読み聞かせ」は“心の食事”

子供にも評判の対話式読み聞かせ

 ――浜島さんは絵本の読み聞かせを通じての家庭教育を推奨している。

 財団法人「松戸市おはなしキャラバン」の責任者をしている時に、「子供に絵本を読んであげてください」と呼び掛けた。テレビ、ラジオ、電信会社、市広報誌など、手当たり次第にPRした。現在はこうした経験を生かし、絵本ライブ、絵本カフェ、絵本コンサート、ミュージカル、人形劇、ユーチューブ配信、ブログ、講座、講演などいろいろな媒体を駆使し、家庭で絵本を読むよう推奨している。

 イベントやメディアを通じて、「一生の土台を創るのは幼児期」だと強調し、①中学校までに読書習慣をつけてあげる②対話式で読み聞かせをしてあげる③声も表情も豊かに読んであげる④静かに聞きなさいとは言わない――と指導している。

 ――なぜ対話式絵本の読み聞かせが良いのか。

 絵本は子供の心情と人格を育てる最高の教育ツール。その理由は、文が短いことにある。たった8分程度で物語が完結する。短い物語に深いメッセージがあり、思考力、想像力、創造力を養うことができる。そして、絵を見ることで右脳が働き、文を読んでもらうことで左脳が働く。対話式の読み聞かせをすれば、心のキャッチボールができるようになる。記憶力が良くなり、人格が育つなど、相乗効果が大きい。

 ご飯がおいしければ子供は家に帰ってくるように、絵本の読み聞かせは「心の食事」ともいえる。親子がそれぞれスマートフォンを触っていれば、関係が希薄になるのは当然だ。スマホをやめて絵本と読書の時間をつくることを奨励したい。虐待の連鎖を断ち切るためには、親子の円滑な関係構築が不可欠で、対話式絵本の読み聞かせは役立つ。

 ――最近、大人を対象にした絵本読み聞かせに取り組んでいるが、どのような狙いがあるか。

 良い絵本を家で読んであげることは、地道ではあるが家庭環境の改善につながる。子供のみを対象にしても影響力が弱いため、今年2月から「おとなの絵本カフェ」を始めた。

 「絵本なんて幼稚」「しょせん子供のもの」という誤解を解いて、大人が知り合い、和み合うことで、子供を守る大人が増えることを願っている。


浜島代志子(はましま・よしこ)

 えほん教育協会代表、劇団天童・天童芸術学校主宰。中学国語科教諭を経て、財団法人「松戸市おはなしキャラバン」を設立。以来40年以上にわたり、読み聞かせや人形劇など、延べ400万人以上に実施した。著書に『1日7分の絵本で子どもの頭はみるみる良くなる!』(すばる舎)など多数。