震災後の幽霊談


 5年前に白血病で亡くなった同級生の墓が埼玉県内にある。彼の墓参りを終え、同級生4人で食事会会場に向かうタクシー車中での会話。

 「アイツ、あの世で何やってんのかな?」

 「あの世と言えば、石巻では、まだ幽霊が出るらしいぞ」

 東日本大震災の被災地、宮城県石巻市で幽霊が出るという話は、地元ではよく知られている。車中の筆者たちは同市出身ではないが、宮城県内の同じ中学校を卒業した仲間だ。筆者の姉は、同市の中でも幽霊がよく出るという日和大橋からさほど距離のない地域に住み、幽霊が出るという話をよく聞かされている。

 会話が幽霊の話になった時、それまで無愛想に運転していたドライバーが割って入ってきた。「私も見たことがあるんですよ。夜ね、歩道で手を挙げていた女性を乗せたと思ったら、いつの間にか、座席から消えていたんですよ」

 「やっぱ、いるんだね。石巻の話も『気のせい』とバカにできないな」と同級生の一人がうなずいた。

 「3・11」から8年。これまでタブー視されてきた死や死後の世界について、公に語ることが多くなったように思う。『津波の霊たち』『呼び覚まされる霊性の震災学』など、震災と幽霊の関係をテーマにした本は何冊か出ている。

 大きな自然災害が頻繁に起きるようになった上、高齢者が増えて、死が他人事(ひとごと)ではなくなっているのだから、当然の現象とも言える。筆者も思春期に祖父の死を目の当たりにしてから、死について考えるようになった。

 その一方で、大震災から8年たっても肉親を亡くした心の傷が癒えない人もいる。それを思えば、「死後の世界はあるのか」と、日常の会話の中で自然に出てくるのは幸せなことなのかもしれない。車中で死を軽く考え興味本位の幽霊談に終わらせてはいけないと思った。

(森)