富山県氷見市 ゆるスポ「ハンぎょボール」誕生

出世魚ブリとハンドボール組み合わせ

 富山県氷見市は昨年2月、ハンドボールと地元で獲(と)れる出世魚「ブリ」を融合させた新しいゆるスポーツ「ハンぎょボール」を(一社)世界ゆるスポーツ協会と共同開発した。大人から子供まで老若男女問わず夢中になれるスポーツで、特に子供たちにはチームワークの大切さを体感し、地元の方言も豊富に取り込まれており、ふるさと教育の場にもなっている。(日下一彦)

“助け合い”のチームプレーが原則

地元の方言使いふるさと教育

富山県氷見市 ゆるスポ「ハンぎょボール」誕生

ブリの縫いぐるみを脇に抱えて得点を狙うプレーヤー=氷見市内の小学校(氷見市教育委員会スポーツ振興課・提供)

 「ハンぎょボール」とは、「ハンドボール」と「魚」の「ぎょ」を組み合わせた造語で、氷見市が「まちおこしの一環」にスタートさせた。きっかけは平成27年の市民アンケートで、運動実施率を問うたところ、全国平均より低い結果が出た。そのため、市民の健康増進とスポーツの実施率を高めようと、ハンドボールによる地域ブランディングと同スポーツの社会的価値の向上、さらに地元の特色を活(い)かした、地域おこしに繋(つな)がるようなスポーツができないかと、ハンドボールを核としたまちおこし推進協議会を設立し、各委員が知恵を出し合って作り上げた。昨年3月に、同市で毎年開かれている「春の全国中学生ハンドボール選手権大会」で全国披露した。

 ルールはハンドボールと基本的に同じだが、プレーヤーはブリをモチーフにした縫いぐるみを脇に抱えてプレーする。得点すると「コズクラ→フクラギ→ガンド→ブリ」と地元の呼び名で出世していく。

 ゲームはキーパー1人とフィールド6人の1チーム7人で対戦する。まず6人は一番小さい「コズクラ(30㌢)」を抱えてスタートし、シュートが決まると4ポイント与えられ、縫いぐるみも「フクラギ(55㌢)」に成長する。さらにシュートが決まると6ポイントの配点で「ガンド(75㌢)」に変わり、最後は「ブリ(100㌢)」に出世し、7ポイント配点される。試合時間は前後半7分ハーフで、休憩が3分間だ。

 シュートする手は必ず縫いぐるみを脇に挟んだ側の手しか使えない(ただし、守備やドリブルは逆の手でも可)。ゴールキーパーも両脇に縫いぐるみを挟んでいる。掛け声もユニークだ。ゴールを決めたらチームみんなで「出世!」とコール。プレーに熱くなり過ぎて、大事なブリを落とすと冷蔵庫送り(コートの外に出る)になり、相手チームが得点するまで、プレーに参加できない。試合終了後、保持している魚に割り振られている得点の集計を行い、チームの合計点で勝敗を競う。

富山県氷見市 ゆるスポ「ハンぎょボール」誕生

保護者と共に得点を数えるプレーヤー=氷見市内の小学校(氷見市教育委員会スポーツ振興課・提供)

 勝利のコツは、個人でどれだけ得点しても上限があるので、チームメンバー全員がブリに出世できるようにお互いに協力するチームプレーが原則だ。従って、上手なメンバーはコズクラからなかなか出世できないメンバーがいれば、早くゴールを決めて次の段階に出世できるようサポートすることが大切になる。

 方言が随所に出てくる点もユニークだ。プレーが止まるのは、例えばブリを持っていない手でボールを投げた時、審判宣告後、相手チームが全員で「だらぶつ!」とコールする。「ばか」との意味だ。このように、反則を取るのも楽しい雰囲気がある。シュートが決まると、「出世」とチームみんなで声を掛け合い、「オーバーステップ」すると「しょわしない(せわしない)」、ボールを持って3秒以上長く動かなかったら、「はよせーま(はやくしろ)」と言った具合だ。

 鮮魚を扱うという設定であり、実際ブリは手で触れると傷みやすい。そこで、魚市場では長さ1・5㍍ほどの棒を使ってセリを行う。それに倣って、試合でも床に並べた縫いぐるみを数える際は、魚市場で使っていた本物の棒を使う。審判員もセリ人に似せた帽子をかぶって審判する徹底ぶりだ。

 普及に努めている同市教育委員会スポーツ振興課の田中久年主査は「ゆるスポーツはルールがキチッと決まっているので、その通りやっていくと、勝って嬉(うれ)しく負けても楽しい。それがゆるスポーツのコンセプトの一つです。負けたチームは『だらぶつ』などと言われますが、『楽しい雰囲気で面白かったね』と言って終われるスポーツです」と説明している。

 今年度はこれまでに、氷見市内の6校で小学5年生と中学1年生が授業で実践した。「夏休みにPTAの親子活動で3カ所ほどやってみたところ、参加するまでは消極的だった保護者が、やり始めたら本気になり、とても楽しかった、との声が聞かれました。これから生涯スポーツとして、どんどん普及していきたい」と田中さんは今後の取り組みを語った。

 なお、氷見市はハンドボールの盛んな街として知られ、ロサンゼルス、ソウル五輪に出場した元ハンドボール五輪選手の西山清氏の出身地でもある。西山氏は日本ハンドボールリーグで幾度も得点王に輝いている。一方、毎年3月に「春の全国中学生ハンドボール選手権大会」が開かれており、地元の男子が全国制覇したこともある。