まずは大人の人格教育から 札幌で道徳授業・家族の在り方セミナー
教師の“場を作る”工夫が必要
文部科学省は今年3月末に来年度から使用される公立中学校の道徳教科書検定結果を公表した。それによれば同省は「考え、議論する道徳」を掲げているが、そこには、“円満で調和のとれた人格の形成を目指す”人格教育が根底にあるべきなのは言うまでもない。一方、人格を形成する上で大きな影響を与える家族の在り方が問われる中、北海道人格教育協議会などが主催する教育セミナーがこのほど、札幌市で開かれた。そこでは、道徳の授業の在り方、家庭の価値観を見直すことの重要性などが論議された。(札幌支局・湯朝 肇)
「家庭力」が地域活性化に効果
「これまでの道徳の授業では、これからの時代を生きる力(コンピテンシー)は育たない。むしろ文部科学省が新しく始めようとする道徳の授業には、その力を育てようとする思いが感じられる」――こう語るのは明治大学文学部教授の諸富祥彦氏。
6月30日に札幌市内で開かれた「人格教育・家庭再生が地方創生の鍵」をテーマにした「ILC―Japan2018in札幌(日本国際指導者会議)」(北海道人格教育協議会、北海道平和大使協議会の共催)で講師に招かれた諸富氏は「道徳科の新しいアプローチと、大人の人格教育の必要性」について講演を行った。
この中で同氏はまず、教師の姿勢について取り上げ、子供との関係性構築の重要性を挙げた。「子供は学校でも“居場所”を求めている。子供が安心できる環境、何でも話せる環境、そうした安心感のある場を教師が作れるかどうか。そこに教師の“場を作る”工夫が必要となってくる」と指摘。
文部科学省が進めている道徳の教科化の有用性について幾つかの点を挙げた。「これまでの道徳の時間のように偉人伝など単に先生の話を聞くだけでなく、日常の出来事に対してどのように道徳的に実践するか、自ら考え道徳的スキルとして行為に移すことのできる授業を可能にするという点では意義がある」と評価。
具体的には、「電車で人に席を譲るといった場面で、心の中でどうすべきか分かっていても、実際に、実践するとなると難しいもの。それらの状況を想定して生徒たちが自ら考え、議論し、実際により道徳的な行為をスキルとして身に付けることができる」というのである。
その一方で、道徳的な思考および実践は大人たちにとっても問題解決のための足掛かりを与えてくれるというのである。「地方の伝統文化の保存や活性化といった取り組みは単に経済的課題ではなく、人と人とのつながりが重要で、その意味では極めて道徳的課題である」とし、それらは環境や持続可能な社会の形成といったグローバルな側面にまで発展する。道徳という問題は決して学校の授業にとどまらないと訴える。
北海道人格教育協議会(会長、山谷敬三郎・北翔大学学長)は、これまで人格教育を柱にいじめや不登校などの教育問題を取り上げてさまざまな研究・提言を行ってきた。そして昨年より「「ILC―JJapan2018in札幌」を開催し、とりわけ結婚・家庭の価値観が揺らいでいる昨今の社会状況から「家庭再生」をキーワードに議論を進めてきた。今回は諸富氏の他に国連NGO団体「UPF-Japan」顧問の松波孝幸氏を講師に招いて家庭再生の重要性を訴えた。この中で松波氏は「近年は家庭を価値視しない風潮が根強い。女性の社会進出、晩婚化が進めば地域崩壊の速度はさらに早まっていくだろう」と訴え、さらに地域が生き残り、活性化するには「何よりも社会の基本単位である家庭を増やすことが大事。そのためには結婚の意味や家庭の持つ癒やしの力といった本来的価値観をもう一度見詰め直すことが大事だ」と主張する。
この日のセミナーでは講演後、パネルディスカッションも行われ、主催者である山谷会長は、「中学校の道徳科目の授業が来年度から始まる。実際に教師がどれだけ道徳の授業を理解しているかという問題があるが、道徳は教育の根幹。今後もしっかりと道徳教育の重要性を訴えていきたい」と締めくくった。







