北朝鮮、半島統一主導に自信か
揺れる在韓米軍の価値
南北・米朝首脳会談で朝鮮半島の平和ムードが一挙に高まり、在韓米軍不要論まで台頭しかねない状況が生まれる中、北朝鮮が独裁体制維持のまま自国主導の南北統一に自信を深める恐れが出てきた。国際社会の関心は非核化や終戦の行方に集中しているが、北朝鮮は半島統一に向け情勢が有利に動き始めた今を密かにチャンスと捉えている可能性がある。
(ソウル・上田勇実)
韓国で「安保不安」後退
「低い段階の連邦制」へ改憲も
「6・15共同宣言とそれを継承した板門店宣言を民族共同の統一里程標としてしっかり立て、(中略)祖国統一に向けた全ての活動においてわれわれ民族の運命はわれわれ自身で決めるという民族自主の原則を固く守っていくことにした」(先月25日付の北朝鮮国営朝鮮中央通信)
これは先月21、22日の両日、韓国と北朝鮮の市民団体が2000年の南北首脳会談で共同宣言が発表された日を記念する行事を北朝鮮・平壌で共同開催し、その結果、合意した一番目の内容だ。
板門店宣言は「6・15宣言」を継承したもので、その精神にあるように半島統一は韓国・北朝鮮だけの手で実現させる、という意志の表れだ。
4月の南北首脳会談で韓国の文在寅大統領は北朝鮮の非核化に向け、自ら米朝会談への橋渡し役を果たすと強調していたが、米朝会談が終わった今、北朝鮮にとって韓国は自国主導による「半島統一」を実現させる“協力者”としてより強く認識されていることをうかがわせるものだ。
米朝会談後の情勢はこれを後押ししている。すでに北朝鮮は米国から「安全の保証」を取り付け、それに基づき独裁体制維持に一定の手応えを抱いているとみられるが、その上で南北交流の活性化や在韓米軍をめぐる一連のやり取りが北朝鮮に「統一」への意欲を一層掻き立たせている可能性がある。
韓国と北朝鮮は将官級軍事当局者会談で緊張緩和問題を話し合い、スポーツ会談では今月平壌で金正恩朝鮮労働党委員長が好きなバスケットボールの南北交流試合を行うことなどで合意。赤十字会談では来月20日から北朝鮮・金剛山で約2年10カ月ぶりとなる離散家族再会行事を行うことを決め、道路の連結・補修に向けた合同調査でも合意に達した。
米朝会談後のわずか半月の間にこれだけ多くの南北協議に北朝鮮が応じた背景には、韓国から北朝鮮脅威論を後退させようという思惑がありそうだ。大統領直属の民主平和統一諮問会議が先月19日発表した世論調査によると、韓国の安全保障について「安全だ」(43・8%)が「不安だ」(22・4%)を初めて上回った。北朝鮮にとって「統一」を阻んできたものの一つに北朝鮮に厳しい韓国保守世論があった。
また在韓米軍関連では、まずトランプ大統領が米朝会談後に言及した米韓合同軍事演習の中止について強硬論者で知られるハリス駐韓大使(前太平洋軍司令官)が支持し、その後に文大統領も「検討する」と述べた。在韓米軍の兵力そのものについてマティス米国防長官が宋永武韓国国防相に「現状水準維持」を伝えた一方、朝鮮戦争(1950~53年)後から約60年間、ソウル市内の竜山に駐屯してきた在韓米軍司令部がソウル南方の京畿道平沢市に移転された。
北朝鮮による武力南侵を抑止してきた演習の中止や在韓米軍基地の事実上の後方移動は、北朝鮮にとって「自主統一」への道をさらに開くものと言える。
もちろん今のところ「文政権が金正恩氏に韓国を明け渡すという極端な選択まで想定しているとは思えない」(韓国保守系市民団体幹部)状況だが、かつて文氏は公の場で「低い段階の連邦制統一は韓国が主張する国家連合制統一とあまり差がないと思う」と述べたことがある。「低い段階の連邦制統一」こそ「6・15共同宣言」で北朝鮮側が自国主導の統一として韓国側に呑ませた統一案であり、韓国にとっては「自由民主的基本秩序に立脚した統一」の指向を明記した憲法に抵触する恐れがある。
韓国のある保守系ネットメディアは文政権が「低い段階の連邦制統一のために2020年の総選挙で憲法改正を公約に掲げる政治戦略を練っているかもしれない」と警鐘を鳴らしている。






