「漆芸の魅力を伝える」テーマにシンポジウム
石川県輪島漆芸美術館で、伝統工芸の奥深さを現代に
「漆芸の魅力を伝える」をテーマに、大学や大学院で漆工芸を学び、今春卒業および修了した若手作家によるシンポジウムが、今月9日、石川県輪島市の県輪島漆芸美術館で開かれた。学生時代に初めて漆芸に触れた人たちがほとんどで、自己表現の一つの手段として漆芸に挑戦した。伝統工芸の奥深い世界を彼らなりに現代に生かし、それを究めようとする姿が伝わってきた。(日下一彦)
自己表現の手段として挑む若手作家
同シンポジウムは開催中の「漆芸の未来を拓く―生新(せいしん)の時2018―」に合わせて企画された。出品した7大学から6人のパネリストが①「漆芸を知らない人に対して自分の作品を伝えるために努力していることは?」②「漆芸の魅力として何を伝えたいか」――などについて意見交換した。コーディネーターは沖縄県立芸術大学の水上修教授が務めた。
まず、金沢美術工芸大学修士課程を修了した鵜飼康平さんは、「制作課程をスマートフォンなどの画像を用いて、言葉とビジュアルを併用した説明を心掛けている」と述べ、さらに、SNSを通じて交流が一段と広がり、「面識のない海外の人から連絡が来たりする。海外に出た知人にも、瞬時に作品を見てもらえる」と、最新のデジタル機器を駆使した伝達方法を紹介した。また、「蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)など加飾技法を使って生まれるさまざまな美しさを、直接的に感じてもらえるのも魅力です」と話していた。
「説明する際は専門用語をなるべく使わず、イメージしやすい言葉遣いに心掛けている」と語るのは、富山大学修士課程修了の内田千月さん。「漆の持つツヤや螺鈿、蒔絵など加飾の華やかさも好きだが、漆には素材の持つ一つ一つの主張を、一つにまとめ上げて作品にする包容力があり、そこが素晴らしい」と指摘。さらに造形においても、「細部まで追求できる隙のない柔軟な素材で、大きい作品でも細密な作品でも、幅広い表現を可能にする多様性がある」と評した。
東京藝術大学美術学部を卒業した若月美南さんは、先輩や先生方の作品を見て、改めて漆の魅力に引かれたという。「漆は加飾にも造形にも使え、修復もでき、多様な用途がある」といい、「パッと見た印象が神秘的で謎めいた憂いを感じ、自分の作品にもそうした雰囲気を出したい」と意欲的だ。さらに「天然の素材なので、塗って内側を守るだけでなく、プラスチック素材と違って自然に返るので、世界全体で見直されるべき素材ではないか」と報告し、期待を寄せている。
「ツヤや光の写り込み方など、漆の魅力が伝わるような物作りを目指したい」という京都市立芸術大学博士課程を修了した入澤あづささんは、「年齢層を問わず、漆に興味のない人にも関心を持ってもらえる造形表現をしたい」と抱負を語り、「従来にはないような新たな漆の魅力を追究したい」と意欲的だ。天然素材としての安全性にも触れ、「食器類に用いると安心感がある」と強調した。
広島市立大学芸術学部卒業の中村美緒さんは、「展示会場で作品を見た方から、どのように作るのか、どうなっているのかとよく聞かれるが、口で説明してもうまく伝わらない。どうなっているのか分からないことも魅力ではないか。見て興味を持ってもらえればそれで十分と思う。漆工芸は“塗り”等々積み重ねの仕事なので、工芸の中でも特殊な部門だ。それが漆の特長であり、説明することでその良さが分かってもらえるのではないか」と話した。
沖縄県立芸術大学美術工芸学部卒業の島袋香子さんは、「大学に入るまでは、漆芸を全く知らなかった」と振り返り、「漆が美術品や日用品として広く使われるようになったのは、美しさだけでなく実用性があったからだと思う。乾漆、蒔絵など加飾の技法は接着力があるから生まれ、深いツヤや経年変化で美しくなるのは漆の堅牢(けんろう)さから」と強調。その上で、「日常生活の中で、身近にあるものを漆で表現し、これも漆でできていることに驚いてもらうことも興味を持ってもらう手段ではないか」と語った。
総評した水上氏は、「現在、漆をやる学生が急増している」と説明し、漆芸を取り巻く多様な技法やその用途などに言及した。「漆芸の未来を拓く―生新の時2018―」は、上記の若手作家らが出品した計34点を紹介している。会期は7月16日(月・祝)まで、会期中無休。出品には東北芸術工科大学も参加している。会期中無休。入館料は一般620円、大学生以下無料。問い合わせ=0768(22)9788。