迷走する「男女共同参画」、 文科省の組織再編案にリベラル系女性団体が反対

 文部科学省は昨年11月、来年度実施する組織再編で「男女共同参画学習課」を新設する「共生社会学習推進課」へ統合する案を発表した。これに対してリベラル色の強い女性団体や一部の国会議員、研究者などが反発。文科省は統合の方針は変えないものの、名称は「男女共同参画・共生社会学習推進課」と修正した。「男女共同参画」行政の現場で何が起きているのか。(社会部・石井孝秀)

名称・イデオロギーに固執
自治体では現実的な対応進む

 当初の名称変更の方針が明らかになると、意見交換会などの集会に訪れた国会議員などからは、統合により業務が増えることで「男女共同参画に注力できるエネルギーが減るのではないか」という懸念の声があった。

文部科学省

来年度の組織再編に向けた取り組みが進められている文部科学省=東京都千代田区(石井孝秀撮影)

 十文字学園女子大学の亀田温子名誉教授ら8人の研究者などが連名で文科省に提出した要望書には「課名に『男女共同参画』を冠したものがなくなることは、都道府県・市町村の関連事業、予算の縮小にもつながりかねません」と記されている。

 しかし、地方の現場ではその逆のケースもある。三重県では男女共同参画・NPO課と多文化共生課が今年度から「ダイバーシティ社会推進課」に統合。多様な人材の活躍を目的として設置されたもので、統合による不都合は特になく、むしろ「同じ課題について連携して話しやすい」(同課担当者)という。

 また、巨大地震発生が危惧される静岡県では女性の地域役員を増やすことが求められているが、これは災害時の責任者を地域役員が兼ねているためだ。災害時の避難所運営は授乳・着替えスペースの必要性や女性向け用品の支給など男性の視点では見落としやすい側面がある。東日本大震災や熊本地震では避難所で女性が性被害に遭うケースもあり、女性の協力は不可欠だ。

 自治体はそれぞれ地方の抱える課題解決への現実的な対応が求められている。中央官庁の課名変更でこれらの動きが鈍化するとは考えにくい。

 実際、全国の都道府県庁で男女共同参画を担当する課の半数以上が「人権」や「青少年」などの異なる業務を兼ねており、中には消費者問題や結婚支援を男女共同参画と一緒に担当している課もある。こういった現状を反映させて、文科省が「共生社会学習推進」という名称を検討したとも考えられる。

 文科省が組織再編を進める理由の一つは、障害者学習や青少年の有害環境対策、外国人児童生徒の指導といった新しい課題に対応するための新しい部署を必要としたためだ。

 男女共同参画学習課は再編後、「課」から「室」として業務に携わることになっており、この方針は名称が再修正されてからも変わっていない。

 名称再修正の理由について文科省の担当者は「法的な整合性が取れなさそうだったというのが実情」と説明する。内閣府には既に「男女共同参画局」が設置されているが、文科省で男女共同参画が共生社会学習推進課に包含されてしまうと、文科省と内閣府の組織令に整合性が取れず、名称が法的に正しくないと判断される懸念があった。そのため、男女共同参画と共生社会学習推進を並列させたという。あくまで、主体的に判断したと言いたいようだ。

 一方、「男女共同参画」という名称にこだわる議員らの思想に注目すると、反対した議員の一人である民進党の神本美恵子参院議員は自身のホームページの中で「長年の慣習や制度によって人々の意識に根付いている性別役割分担の意識を払拭」する教育を強調している。ジェンダーフリー思想がその背景にあることは明らかだ。

 元厚生省児童家庭局企画課長の大泉博子氏は、この20年間進められてきた男女共同参画政策について「家庭や地域とは非常に関連性が薄く、社会で活躍するエリートだけを対象としている。男女共同参画が社会を反映したものでなかった上に、今や政策を推し進めた女性官僚や論客が高齢化で数を減らしていった結果、リーダー役が不在となりくすぶった状態。現代の若い女性の意見を反映させた新たな男女平等政策が必要だ」と語る。

 今回の名称変更をめぐる騒動は、リベラル派の女性団体や政治家が、相変わらず現実から乖離(かいり)した、イデオロギー優先の「男女共同参画」に固執していることを改めて浮き彫りにする形となった。

 男女共同参画 1999年6月23日に公布・施行の男女共同参画社会基本法に基づく社会政策で、男女が対等な立場であらゆる分野へ参画し、均等な利益を受けることのできる社会の実現を目的としている。女性の社会進出推進や女性への暴力根絶などを柱としている。