有権者が気付かぬ最重要選挙
エルドリッヂ研究所所長、政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ
危機管理できる政権を
ビジョンを持つ為政者選べ
何カ月も噂(うわさ)されていた9月末の衆議院解散とそれに伴う総選挙は本日22日に行われる。政治学者として日本の政治外交史を専門にしている筆者は、ある程度、国民の判断を想像できる。断言できるのは、今回の第48回衆議院議員総選挙は、戦後、最も重要な選挙の一つであり、日本の今後の針路を決める選挙だということだ。
その理由は、三つある。一つは、北朝鮮の核開発とミサイル実験がかつてないほど北東アジアの情勢を緊張させ、戦争になりかねない状態だ。危機管理ができる政権を選ぶかどうかが問われている。
二つ目は、安全保障に加え、さまざまな内外の問題が存在し、「国難突破」のための選挙と位置付けられている。
三つ目は、政界再編が行われており、今後の政党や政策、政治家の運命や判断が決められる。スキャンダルがあり、問題が多く、能力がない“政治屋”を追い出して、日本の政界をきれいにする最後のチャンスでもある。
予測できないのは投票率だ。国政選挙での投票率は、基本的に毎年、だんだん減っており、前回の2014年の総選挙では、史上最低の52・66%であった。昨年から18歳からの投票権を持つ新しい層が誕生して、大いに期待されたが、残念ながら、その投票率は平均よりかなり低く、46・78%であった。批判すべきだが、彼らの先輩である、20代、30代の有権者は、それより低かった。
無礼に聞こえるかもしれないが、投票しない有権者は、日本の社会や政治をはじめ、税金の使い方、教育の在り方、外交における姿勢など、国家が決める課題について発言権はない。ある政党は、「投票するのは権利」と言っているが、権利を超えて、市民の義務そのものだ。投票するのはチャンスでもある。特に、この重要な時期に日本が歩むべき道について意思を示す一般の国民にとって唯一の機会であるので、投票する権利を有する人(有権者)の皆さんは投票してください。
昔のように、75%ぐらいの投票率だけではなく、80%台、90%台を目指すべきだ。そうすれば、政治家がちゃんと聞くようになる。それだけではなく、世界は、民主主義国家日本に対して新たな尊敬が生まれ、次期総理大臣は自信を持って国際社会において発言できるようになる。
もう一つ、予測できないのは、投票行動の中の今の日本の有権者の判断そのものの基準だ。つまり、今の日本人が政治家に求めている条件は何なのか。
無党派が多いといわれる現在の日本社会では、一体何に基づいて候補者を選ぶのか、解散の時の日本人の考え方を調査してみた。4000人余りのフェイスブック(FB)の「フレンド」に声を掛け、彼らからも転送され、多くの生の回答をもらった。
ところで、別の時、同様な方法を利用してアンケートを取ったことがある。今回より回答した数が多く、一般の人から専門家まで返事をもらった。安倍内閣の最新の改造についてであったが、総合月刊誌「中央公論」でその結果を紹介しようと思ったが、「非学問的」と批判され掲載がかなわなかった。
私はそのエリート主義に対してがっかりした。歴史のある同雑誌が、一般国民の意見から非常に離れて、それが日本(や米国)の政治の問題を象徴しているからだ。言うまでもなく、昨年の米大統領選では、そのエリート主義者やそのメディアが全面的に否定された。
もう一つがっかりしたのは、エリート主義者が、現在の選挙戦におけるソーシャルメディアの役割を正しく理解していないことだ。特に、今年の選挙では、かつてないほどFBなどが使われている中で、国内だけでその3000万人近くいるとされるユーザー、すなわち国民は、どのように考えているのかは、当然、対象になるべきだ。最も「庶民的」な声でもあると言えるかもしれない。
コメントの中で、「国家観」や「国防意識」を持つ「国益を第一に考える人間」とか、「私利私欲ばかり考えず」「信仰心があり、私心無く、国民のために政治を行う方」など、理想的な政治家像について、たくさんの意見が寄せられた。これは、日本だけではなく、米国をはじめ他の民主主義の国でも共通している希望だと思う。
筆者は日本に投票権がないが、日本の政治家に期待しているものは何かと聞かれたら、信念と信頼、正義感が最も大切だと思う。その三つがなければ、いくら経験や能力があっても、人間として成り立っていない。
イメージで左右されず、候補者をしっかり見るのは、有権者の投票行動以外のもう一つの仕事だ。それを助けるために、19世紀に米国で奴隷制度に対して反対活動をしたある牧師、ジェームス・フリーマン・クラークの名言を紹介する。
「政治家は次の選挙しか考えない。為政者は次の世代を考える」
これからの日本、この重要な時期こそ、有権者は利権を追求する単なる政治家ではなく、ビジョンを持つ為政者を選ぶべきだ。











