感情論に負けた参院選沖縄
なぜか米軍の事件多発
内部対立多い「オール沖縄」
7月10日投開票の参院選挙は、自民・公明の与党体制が全国的には圧勝、改憲勢力3分の2を占めた。だが、沖縄選挙区(改選数1)は、現職で3期目を目指した島尻安伊子氏(沖縄担当相)が無所属新人の伊波洋一氏に敗れる波乱があった。自民公認で公明、おおさか維新推薦の島尻氏は24万9955票を獲得したが、普天間基地の辺野古移設反対のいわゆる「オール沖縄」野合勢力に後押しされた伊波氏が35万6355票を稼ぎ、10万6400票差をつけられた。
島尻氏は、現職閣僚でかつ県民の暮らしや、子育て支援など多くの実績があったにもかかわらず、ただただ「辺野古基地反対」のシングルイシュー(たった一つだけの政策争点)を掲げた伊波氏に大差で敗れた。敗北したとはいえ、島尻氏自身の獲得票は、沖縄県内における自公体制がこれまでの参院選で勝利してきた「基礎票」には届いている。つまり、島尻氏が極端に票を減らして負けたわけではない。
ということは、伊波氏が従来の左翼革新勢力票にプラスして、相当の票を上積みしたという結果にほかならず、むしろ、「基地反対」のみの政策を打ち出した伊波氏が「なぜ大差で勝てたのか」というところに参院選沖縄選挙区の総括点があるとみる。
ずばり言おう。島尻氏にとっては選挙そのものを取り巻く環境全体が非常に厳しかった。
どういうことかというと、参院選に入る直近から米軍基地に絡む事件事故が相次いで発生した。米兵による観光客暴行事件、軍属による遺体遺棄事件、酒酔い交通事故など米軍基地から派生する犯罪行為に対し、地元マスコミはまるで待っていましたとばかりに「これでもか」と反米・反基地の世論操作を仕掛けて沖縄県民の反基地感情を煽(あお)り、翁長雄志県知事と日本共産党を先頭にした「オール沖縄」勢力は、選挙直前の「県民大会」なるものにかこつけて、事件事故を巧みに政治利用=選挙利用してきた。
こうなるともはや、冷静な政策論争は成り立たないのが沖縄の人々の県民性である。
島尻氏が主張する県民の暮らしや子供の貧困問題解決、経済振興策など具体的で、生活に直結した現実的な政策課題よりも、「基地憎し」「辺野古基地反対」の感情論が「民意」にも「正義」にもなってしまうところが沖縄の現状、または「沖縄の民度」と言える。
島尻氏の最大の敗因はまさにここにあった。
いみじくも地元紙・沖縄タイムスと「読者委員会」の会合で、選挙戦を振り返った読者委員の一人が、伊波氏の圧勝について「米軍属による女性の遺体遺棄事件に対する県民の怒りの票」と発言している(7月27日付紙面)。
候補者の人物評価や実績、政策、選対組織の取り組み以前に、何よりも県民の感情論が強く出たのが今回選挙の特徴であろう。
筆者からみれば、「感情論」のみにすがる世論は、時に視野が狭く、論理性を欠き、独善性に陥る危うさが付きまとう。とはいっても、基地を原因とする事件事故がいったん発生すれば沖縄の選挙戦は常に、理屈抜きの感情が物を言ってきた経緯がある。
そのあたりを熟知しているマスコミと翁長知事、共産党など左翼陣営が徒党を組み、「オール沖縄」に名を借りて世論を煽るだけ煽り、「勝ち」にいったのだ。
選挙のたびになぜ米軍絡みの事件事故が多発するのか。筆者ならずとも多くの選挙関係者の率直な声だ。
事件事故の再発防止策をはじめ、もはや日米地位協定の抜本的改革などが必要な時期にきているのではないか。自公陣営は、選挙敗北の明確な要因を正面から捉え、戦略・戦術を真摯(しんし)に練り直さないとこの先、前に進めない。
さて、その野合集団「オール沖縄」だが、辺野古基地とは別問題の「高江米軍ヘリパッド建設」(東村と国頭村)をめぐって、翁長県知事と県議会与党、オール沖縄会議の間に意見の食い違い、対応のズレが突出した。何ら具体的対応を示さない知事と「オール沖縄」に対し、与党とマスコミが不満をぶつけ、足並みが完全に乱れてしまった(7月29日付タイムス)。「オール沖縄」の限界、崩壊が露呈したのである。
このような内部対立は、中部・沖縄市の泡瀬干潟埋め立て、那覇空港第2滑走路増設、浦添市の那覇軍港移設問題など大型事業の対応でも発生している。「オール沖縄」発祥の拠点になった那覇市議会の「新風会」は、牽引(けんいん)したリーダーの金城徹議長に対して、議長不信任並びに抗議決議が採択されて混乱の極みにきている。共産党機関紙「しんぶん赤旗日曜版」の常連でもある金城議長は、次期衆院選4区で、現職仲里利信氏(無所属)の後継擁立の動きを見せ、「オール沖縄」内部の紛糾のタネをまいているという。
しょせん辺野古反対オンリー、選挙屋集団の野合「オール沖縄」でしかない。内部矛盾の数々を抱え、そのうち消滅する運命にある。
(にしだ・けんじろう)