露年次教書、ISとの戦いで足並み乱すな
ロシアのプーチン大統領は、恒例の議会向け連邦年次教書演説を行った。
演説の約4分の1が過激派組織「イスラム国(IS)」に対する掃討作戦および領空侵犯を理由とするロシア軍機撃墜で一気に悪化した対トルコ関係に費やされた。
露軍機撃墜を強く非難
プーチン大統領は「我々はトルコで誰が、シリアで盗まれた石油の密輸によってテロリストを勢いづかせているか知っている。テロリストたちはそれで傭兵(ようへい)をリクルートし、武器を買い、ロシア、フランス、レバノン、マリなどの国の市民に対する非人道的なテロを計画している」と主張。名指しは避けたが、トルコのエルドアン大統領と同国政府に「テロリストの共謀者」とのレッテルを貼るなど、強硬な姿勢は変わっていない。
ロシア軍機撃墜に関しては「私が思うに、彼らがなぜあんなことをしたのかアラー(神)だけがご存じだ。アラーは多分、知性と理性を奪うことで、トルコの支配層を罰することを決めたのである」と強く批判した。
もっとも、これについてはロシアの側にも問題がある。シリア内戦では、ロシアがアサド政権、トルコが「同胞」のトルクメン人を含む反体制派を支援。共通の敵であるISを打倒する名目でロシアは空爆を始めたが、トルクメン人勢力も爆撃したことにトルコが激怒し、緊張が高まっていたことが撃墜の背景にある。
プーチン大統領はトルコに対して「武力で威嚇しない」としながらも「もし誰かが憎むべき戦争犯罪を遂行したり、我が国民を殺害しながらも、トマトの輸入禁止や建設などの制限にとどまると考えるならば、それは幻想である」とさらなる制裁措置をにおわせた。
ロシアは撃墜後、トルコ産農産品の輸入規制を強化するなどの制裁措置を取っている。もっとも、ウクライナ危機後の対露制裁への報復として、昨年8月から欧米産農産品を輸入禁止にしており、今回のトルコへの措置でロシア国内で物価のさらなる高騰を招く可能性がある。
撃墜後初めて、両国外相会談がセルビアの首都ベオグラードで行われた。しかし、緊張緩和に向けた具体的な進展はなかったもようだ。ロシアは撃墜に対する謝罪を要求しているが、トルコのチャブシオール外相は「哀悼の意」を表するにとどめた。一方、トルコがISから石油を密輸しているとのロシアの主張には「根拠がない」と断言して取り下げるよう求めた。
トルコと緊密に協調を
プーチン大統領は演説で1990年半ば以来起きたロシアでの数々のテロ事件を振り返った後、「国際テロリズムを一国だけで根絶することはできない」とした上で、シリア空爆について「我々は議論をやめ、立場の違いを忘れて、国際法と国連の下で共通の反テロリスト戦線を構築しなければならない」と訴えた。
ロシアとトルコの対立はISとの戦いにおける国際社会の足並みを乱している。このままではISの思うつぼである。両国指導部は早急に歩み寄り、反IS戦線で緊密に協調すべきだ。
(12月8日付社説)